実施例
KOD -Multi & Epi- 実施例6 イノシンを含むプライマーを用いた1-step RT-PCRによるノロウイルス遺伝子の増幅
本実施例は、大阪健康安全基盤研究所 左近直美先生に監修いただきました。
KOD -Multi & Epi-®と逆転写酵素を組合わせ、1-step RT-PCR を実施しました。
イノシンを含むプライマーを用いても増幅を確認することができました。
<背景>
ノロウイルスは感染性胃腸炎を引き起こすウイルスです。感染性が非常に強く、集団発生がしばしば報告されています。このウイルスは、遺伝子変異や遺伝子組換えを起こすことが知られ、流行株の判定や集団感染における感染源特定などで、配列解析が行われます。この解析において、近年、RNAポリメラーゼとキャプシドの2領域の遺伝子型別(dual-typing)を行い、より詳細な解析を行うことが世界的な流れとなってきています。
本アッセイは、RNAポリメラーゼとキャプシドにまたがる領域を増幅し、塩基配列を決定することでdual-typingが可能です1)が、使用するプライマーにイノシンが含まれるため、 Taq DNA polymeraseを用いた増幅では増幅効率が低く、十分な感度が得られませんでした。また、従来の高効率PCR 酵素(KODやPfuなどFamily B の DNA polymerase)は、イノシンを塩基のエラーとして認識し、反応を停止させる機構があることが知られており、イノシンを含むプライマーは使用できませんでした。
ここでは、高効率酵素にイノシンの影響を受けないように改変を施した KOD DNA polymerase (UKOD)を用いたKOD -Multi & Epi-®に逆転写酵素を組合わせ、簡便な1-step RT-PCRを行うことで、前記アッセイの対象領域を増幅した例をご紹介します。
<実験方法>
【サンプルの調製方法】
ノロウイルスGI.1由来RNA、ノロウイルス GII.4由来RNAの塩基配列から、ORF1~ORF2のポリメラーゼ~キャプシド部分にあたる約700bpの配列にT7プロモーター配列を付加した遺伝子断片を人工合成しました。この合成DNAを鋳型として、ScriptMAX® Thermo T7 Transcription Kit [Code No.TSK-101]を用いてRNAを合成しました。この合成したRNAをサンプルとして、イノシンを含むプライマーで1-step RT-PCRを実施しました。 1-step RT-PCRは、弊社逆転写酵素ReverTra Ace® [Code No.TRT-101]をKOD -Multi & Epi-®に添加して行いました。
【プライマー配列】1)
GI primer MON432 TGGACICGYGGICCYAAYCA G1SKR CCAACCCARCCATTRTACA |
GII primer MON431 TGGACIAGRGGICCYAAYCA G2SKR CCRCCNGCATRHCCRTTRTACAT |
【反応液組成】 【RT-PCRサイクル】
(μL) | 42℃ 30min. | |||||
RNase free water | 17.9 | 94℃ 2min. | ||||
40U/μL RNase inhibitor | 0.5 | 98℃ 10sec. | 40cycles |
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5U/μL ReverTra Ace®*1 | 0.6 | 50℃ 30sec. | ||||
2×PCR Buffer for KOD -Multi&Epi-® | 25 | 68℃ 30sec. | ||||
10~20μM Forward Primer*2 | 2 | |||||
10~20μM Reverse Primer*2 | 2 | |||||
KOD -Multi&Epi-® | 1 | |||||
Template RNA | 1 | *1 ReverTra Ace® は用時に水またはバッファー で希釈して添加しています。 |
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Total | 50 | *2 Primerは0.4~0.8μM(final)で使用できます。 |
<結果・考察>
イノシンを含むプライマーと逆転写酵素を加えたKOD -Multi & Epi-®を使用した1-step RT-PCRで、ノロウイルス由来RNAの増幅を確認しました。逆転写酵素を含まない系と、 KOD -Multi & Epi-®の代わりに従来の高効率PCR酵素としてKOD -Plus- Neoを使用した系では、増幅が確認されませんでした。またプライマー濃度については、0.4~0.8µMで増幅を確認しました。
<参考文献>
1) Jennifer L. Cannon, et al. J. Clin. Microbiol. 2017 Jul 55(7) 2208-2221