実施例
KOD FX 実施例40 メダカ幼魚の遺伝子による性別判断方法
【サンプル】ヒメダカ (Oryzias latipes) の成魚のオス、メスおよび幼魚(性別不明)
【サンプルの処理】
(1) ヒメダカを氷の入ったシャーレに入れて1-2分間放置する。
(2) ヒメダカ尾鰭約50mgをはさみとピンセットを用いて切り取り、生体試料破壊器具(BioMasher; 株式会社ニッピ)の中に入れる。
(3) その容器に50 μLのphosphate-buffered saline [8.1 mM Na2HPO4, 1.5 mM KH2PO4, 2.7 mM KCl, 137 mM NaCl (pH 7.4)]を添加し遠心機を用いて、15,000×gで10~30秒間遠心する。
(4) 遠心により破砕された試料溶液中の目的DNAをPCRで増幅する。
(5) PCR 産物をアガロース電気泳動法により、そのサイズを確認し幼魚の性別を判定します。
※メダカのヒレは、2週間程度で再生します。
【遺伝子名】
・DMY(DM domain gene on the Y chromosome)遺伝子
・DMRT1(DM-related transcription factor 1)
【ターゲット】
メス:DMRT1 (1,300 bp)
オス:DMRT1 (1,300 bp) + DMY (1,000 bp)
【プライマー配列】
DMY F: 5’CCGGGTGCCCAAGTGCTCCCGCTG3’
DMY R: 5’GATCGTCCCTCCACAGAGAAGAGA3’
【反応条件】
DW 6
2×Buffer 25
2mM dNTPs 10
10 pmol/mL Primer F 1.5
10 pmol/mL Primer R 1.5
KOD FX 1
Sample 5
50 μL
【PCRサイクル】
Taq DNA polymerase :
94℃, 2 min.
(94 ℃, 1 min., 55 ℃, 1min., 72℃, 1 min.) ×30 cycles
72℃, 7min.
KOD FX:
94℃, 2 min.
(98℃, 10 sec., 55℃, 30 sec.,68℃, 1 min.) ×30 cycles
68℃, 5 min.
【コメント・ご意見等】
DNA の個体差を学習するための実験として、大学の実習では実験者自らの細胞を用いて行うことが一般的です。しかし高校生を対象とした場合、この実験ではDNA という個人情報を扱っていることを十分に理解させた上で行わせることが大切です。また、実験を実施できる環境が整ったとしても、多くの時間を要するDNA の抽出・増幅の作業が、時間的制約のある実習において大きな障壁となっています。
そこで本研究では、DNA の個体差を学習する実験として、性決定遺伝子が明らかなメダカを材料にして外部形態からは判断できない幼魚のオス・メス鑑定の実験を簡易かつ迅速に行う方法を開発しました。 この実験方法では、DNA の抽出については生体試料破壊器具のBioMasher(株式会社 ニッピ)を、DNA の増幅についてはPCR を行う際にKOD FX(東洋紡績株式会社)を使用することで、大幅な時間短縮と低コスト化を実現し、3時間以内という短時間かつ低予算での実習が可能となりました。これまでの方法では、DNA の精製が必要であったところを、精製せずに生体試料を破壊した抽出液を直接PCR に使用することが可能であったこと、またKOD FX DNA polymerase のDNA 増幅効率が高いこと(30~40分短縮)が時間短縮の要因です。
この新しく開発したメダカ幼魚の性別判断方法は、特別な器具やキットを必要とせず短時間で簡易に行うことができ、また個人情報を扱うことがありません。未成年が所属する高校や大学の初期教育において、DNA 鑑定や遺伝子多型などを学ぶきっかけとして実施しやすい実験です。
【データご提供】
東邦大学 薬学部 実験部門
西口 慶一 先生
西口先生が実際に実習に使われているテキストがこちら からダウンロードいただけます。ご参照いただき、先生方の実習にも是非お役立てください。関連のプレスリリースはこちら から。