実施例
KOD Dash 実施例2 マルチPCRによるSTECの病原性関連遺伝子の検出
O157:H7に代表される志賀毒素産生性大腸菌(STEC)は強い感染力と病原性を有し、深刻な疾病を引き起こす危険な細菌である。近年、本菌が猛威を振るい、これまでに死亡例を含め多数の患者が発生している。STECの最も重要な病原因子である志賀毒素(ベロ毒素)は、免疫学的性状や分子量の異なるStx1およびStx2に大別され、それぞれstx1およびstx2遺伝子にコードされている。PCRによるstx遺伝子の増幅は、STECを簡便かつ迅速に検出する方法の一つである。
今回、stx1およびstx2遺伝子を2つの病原性関連遺伝子(eaeAおよびhlyA)と同時に検出できるPatonらのマルチPCR法1に以下の改良を加え、STECをより迅速に検出、タイピングできる系を構築した。
- KOD Dashに変更
PCR酵素(原法ではTaqポリメラーゼを使用)をKOD Dashに置き換えることにより、PCRに必要な時間の短縮を試みた。
- ターゲットとなる遺伝子を追加
IS1203v特異的なプライマーを追加し、5種類のターゲットの同時検出を試みた。IS1203vはstx2遺伝子上で発見された挿入配列(IS)2であり、神奈川県でも本ISがstx2遺伝子に挿入されたO157:H7株が分離されている。また、本ISがゲノム解析された大腸菌K-12株には存在しない(他のISは多数存在する)ことから、大腸菌が病原性因子を獲得した過程との関連も推測される。
【方法】
神奈川県下で1996~99年の間に分離されたSTEC株(11株)およびK-12株(1株)について、菌体コロニーを直接鋳型としてPCRを行った。反応液組成およびサイクル条件は以下の通りである。
PCR終了後、反応液の1/10量を用いてアガロースゲル電気泳動(2% TAEゲル)を行った。
【結果】
本マルチPCRの結果、stx1(180 bp)、stx2(255 bp)、eaeA(384 bp)、hlyA(534 bp)、IS1203v(910 bp)の各ターゲットに対して明瞭な増幅を確認できた。電気泳動での各バンドの分離も良好であり、本系は主要な病原性関連因子に基づくSTECのタイピングに有効と思われる。また、KOD Dashの使用によりPCRを1.5時間以下(原法では約3.5時間)で行えることは、多検体の迅速な処理が必要な場面が多い現場にとって大きなメリットである。
【データご提供】
神奈川県衛生研究所 細菌病理部 沖津 忠行 様 ・ 鈴木 理恵子 様 ・ 山井 志朗 様
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