実施例
KOD -Plus- 実施例7 Colony direct-PCRによる各種微生物遺伝子の簡便・迅速検出
【データご提供】
国立感染症研究所生物活性物質部, 日本微生物クリニック株式会社 技術部 土崎 尚史 様
国立感染症研究所生物活性物質部 堀田 国元 様
一般的にCD-PCRの適用例が比較的稀と思われるS. aureus以外のグラム陽性菌、グラム陰性菌および真菌(酵母)を対象にしたCD-PCRについて紹介します。
【方 法】
グラム陽性菌として臨床由来の腸球菌(Enterococcus faecalis)と放線菌(Streptomyces属の2菌種および未同定希少放線菌株)、グラム陰性菌として臨床由来のLegionella pneumophila 2株とSerratia marcescens 1株、および真菌(酵母)としてCandida albicans 1株を用いました(Table 1)。それぞれ標準的な培地で生育させたコロニーから目に見えない量の菌体を滅菌爪楊枝の先端に付着させ(実施例6参照)、それを直接PCR反応液に接触し、そのままPCRを行いました。PCR反応液組成とPCR条件はプロトコルに準じました。Table 1に示したように、腸球菌、放線菌、Legionellaは複数の遺伝子を標的として、相応する複数のプライマーを混合して用いました。アニーリング温度は各プライマーに適した温度を設定しました。また、放線菌についてはDNAのGC含量が高い(約70%)ことを考慮して変性温度を98℃に設定しました。
【結果および考察】
Fig.1、2、3に示した通り、いずれの試験菌株でも標的遺伝子がCD-PCRによって問題なく選択的に増幅しました。
いずれの場合もS. aureusの場合1)と同様に、目に見えないほどごく少量の菌体を反応液に添加することよって良好な増幅が得られましたが、目に見えるほどの菌体を添加した場合にはCandida(Fig.3)を除いて増幅反応の阻害が見られました。
Multiplex CD-PCRを行なったケース(腸球菌、放線菌、Legionella)では、既知の遺伝子プロフィールと合致する遺伝子増幅パターンが得られ、用いたPCR条件の選択性が高いことを確認できました。腸球菌の標的遺伝子は、S. aureusにも共通して存在することが知られており、そのことを反映するPCR増幅が認められました。
放線菌の場合は、試験菌の中で唯一菌糸状に生育し、寒天中の菌糸から空中へ菌糸を伸ばす(その先に胞子をつける)という特徴をもちますが、寒天中の菌糸に爪楊枝を触れることがキーポイントと判断されました。
LegionellaとSerratiaについては、グラム陰性である点ではE.coliと同じですが、E.coliでは問題のない目に見える量をPCR反応液に加えると良い結果が得られませんでした。
Candidaを対象とするPCRでは、一般的に酵素処理や熱水抽出により得られるDNAが鋳型として用いられますが、ここに紹介したようにCD-PCRでも十分に標的遺伝子の増幅が可能です。しかも、見えるほどの量の菌体を用いても問題ないことから、E.coliと同様にCD-PCRを容易に適用できると判断できます。
なお、データは示しませんが、同じく酵母であるSaccharomyces cerevisiaeでもCD-PCRが可能でした。
一般にコロニーを用いてのPCR(colony PCR)は、E.coliを除いて、コロニー菌体を熱水処理し、漏出したDNAを含む上清を鋳型として用いる方法を指す場合が多いです。CD-PCRはこのDNA抽出操作を省いているので、CD-PCR(特にmultiplex CD-PCR)を適用できるならば、多数の菌株を低コストで短時間に検査することができるという利点があります。
CD-PCRに対する一般的な懸念は結果の再現性ですが、われわれの経験では従来法と何ら変わりがない再現性の良い結果が得られています。キーポイントの一つは菌体の添加量(実施例6 Fig. 2参照)で、失敗例のほとんどは過剰量の菌体添加が原因です。
「ごくわずかな量の菌体」、あるいは「目に見えない程度の量の菌体」を爪楊枝に接触させるには、「本当に菌体が付着しているのか?」といった感覚的に不安を覚えるような程度の触り方で十分です(数回の練習で習得可能)。
もう一つのキーポイントはKOD -Plus-のような高性能のDNA polymerase を用いることです。この二つが揃えば、誰でも各種の菌種においてCD-PCRを満足できるレベルで適用できると思われます。是非自分の目でお確かめいただきたい。
参考文献
1)土崎尚史, 堀田国元:Upload No.69: p. 9-10, TOYOBO, (2002)
2)土崎尚史, 石川淳, 堀田国元:Jpn. J. Antibiot ,53, 422-429(2000)
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