「西海岸。の風に吹かれて」 第6回

第6回 分子「盛花」学  <2007年11月>

 みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。現在、西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・。 このシリーズでは分子「姓名」学分子「和独算」学分子「徘徊」学そして最近の4,5回では分子「華族」学分子「ポストドッグ」学と連続で、親子2代でのノーベル賞受賞者Arthur Kornberg教授ファミリーの話題をとりあげてきました。

  最近、テレビで急にJBC,JBCと騒いでおり、JBCといえば、Journal of Biological Chemistryだと思っていたのに、よく聞いたら(財)日本ボクシングコミッション(Japan Boxing Commission)。そこで今回はその話題に絡め、分子「JBC」学とする予定でしたが、Arthur Kornberg逝去の報が入りましたので、この場を借り、哀悼を捧げる意味で分子「盛花」学とさせていただきます。

  平成19年10月28日、日曜の朝刊を開いた私の目に飛び込んできたのが、Stanford大学名誉教授にしてDNA複製メカニズム解明に寄与し20世紀後半の生化学にノーベル生理学・医学賞受賞者として高く聳えた(Towering biomedical scientist とStanford大学医学部のプレスリリースは伝えた。)Arthur Kornberg教授が10月26日享年89歳で逝去したとの訃報でした。前回にも紹介したように、つい先日7月23日に東京大学安田講堂で開かれたコーンバーグファミリーシンポジウムに息子3人ともども親子で来日、やや歩くのがつらそうでお疲れ気味でしたが、それでも、翌日の東大医科研での講演もこなされ、最近入院するまで研究室を運営していた不死身とも思える人でしたから驚きでした。即日、彼の偉大なる業績を称える評伝はもとより、彼の教え子、ポスドク、同僚、家族などからの彼にまつわる隠れたエピソード満載の思い出が続々とオンライン記帳のコーナーに寄せられており、一読に値します。その全てが、彼の教え子、同僚、袖振り合った人々すべてを魅了した温厚な人格(最近の流行でいえば、これぞ究極の品格ともいうべきもの)を如実に反映し伝えています。


 そのうち、10月末までに書かれていたものからいくつかをご紹介しましょう。


・ポスドクだったAnand Sethuramanさん:最初の勤務日がたまたま大学の休日だったのに、彼は研究所入口のドアで待っていてくれた(その時80歳)

・別のラボのポスドクだったVenkata Ratna Prasadさん:初めて会った日に1時間半も科学のディスカッションをしてくれ88歳と思えぬ強靭な記憶力と明晰な頭脳に驚愕した。

・最後の共同研究者だったNarayan Raoさん:1992年に一緒に仕事を始めてから過去15年間の勤務日は毎日、背中をたたいて励ましてくれた。

・最後のポスドクだったRosario Gomez Garciaさん:つい一週間前も私の将来の研究の事を心配してくれた。

・女性として最初の大学院生だったLee Rowenさん:毎年、彼に誕生日のプレゼントを贈ったが、ある年贈ったコーヒーマグカップを数年後も使い続けてくれており驚いた。

・彼の孫のDavid Leveringさん:子供時代は、ドライアイスをおもちゃとして実験室から持って帰ってくれる優しいおじいちゃんであり、テニスや水泳を教えてくれた。高校の教科書で読むまで、そんなに偉い科学者だとは露知らなかった。

・教え子であり同僚でもあったDoug Brutlagさん:入院の前日、私のオフィスに置いてある教え子にもらったDNAに結合したDNAポリメラーゼIの結晶モデルを見て羨ましがった。(ArthurはDNAポリメラーゼⅠの発見者)

・ポスドクだったZenta Tsuchihashi(土橋善太)さん:Stanfordの生化学科は、異なった研究室間でも実験室を共有し、ポスドクもみな混在して仕事をする方針だったため、RNase Aの構造解明に従事する院生と、mRNA解析する別の研究室の学生が同じ実験台を共有していた面白い出来事を今でも思い出す。

―――実は、「西海岸。」が初めてArthurに会った時に仲介してくれたのがZentaさんです。大学時代、Zentaさんと私が同じ研究室で彼の著書DNA Synthesisを輪読していたことを話したら、Arthurがものすごく喜んでくれたことを私も思い出しました。―――

 前回も紹介したとおり、Arthurの遺作となったGerm Storiesという子供向け絵本は11月15日に発売予定で予約受付中のようです。 彼の葬儀は家族で密葬され、献花の代わりに篤志はStanford 大学医学部内のDr. Arthur Kornberg Memorial Fundあるいは任意の箇所に寄付するように遺族は希望しています。私は、もはや彼のサインをねだることはかないませんが、せめてGerm Storiesを予約注文して、遺徳をしのびたいと思います。心よりご冥福をお祈りします。では、次回、2008年、平成20年にお会いできれば、その本の内容紹介をしましょう。

(西海岸。)
2007年11月掲載

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