「西海岸。の風に吹かれて」 第5回
第5回 分子「ポストドッグ」学 <2007年9月>
みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。現在、西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・。 このシリーズの第1回では分子「姓名」学、第2回では分子「和独算」学、第3回では分子「徘徊」学、そして第4回では親子2代でのノーベル賞受賞者Arthur Kornberg教授、長男Roger Kornberg教授ならびに次男のTom Kornberg 教授ら一家を分子「華族」学としてとりあげました。今回は、続編として分子「ポストドッグ」学としましょう。ポストドクの誤植じゃないのと心配の方も、心配でない方も最後まで御一読のほどを。
さて、前回の予告どおり、7月23日に東京大学安田講堂で開かれたコーンバーグファミリーシンポジウム 聴講に上京しました。安田講堂は、私の学生時代はまだ閉鎖されていて、中に入ったのは初めてです。講堂内部は思ったよりは小さいなという印象でしたが、満員の盛況。中には北陸地方から駆けつけたという知人の顔も見えましたから全国からの誘引力があったことでしょう。報道 によれば約1,000人の聴衆だったそうです。新井賢一東京大学名誉教授・直子御夫妻はもちろんのこと、早石修京都大学名誉教授、Okazaki Fragment発見者の故岡崎令治氏夫人岡崎恒子名古屋大学名誉教授、上代淑人東京大学名誉教授などKornberg先生ゆかりの大御所先生方が最前列に並び壮観でした。翌日の医学部でのRoger の講演には本庶佑京都大学名誉教授の顔も見えました。
「西海岸。」はというと、今回の世話人である東京大学分子細胞生物学研究所所長宮島篤教授の御配慮でArthur Kornberg先生と、講演前の控え室で面会でき、あわよくばと持参の著書THE GOLDEN HELIX原本に、次のような直筆サインもいただけたので、大感激です。To Nishi Kaigan(実際はもちろん筆者の実名)With warm wishes and recollections of real time at DNAX. Arthur Kornberg あわせて、昔、私的にお世話になったお礼も申し上げました。その話題は、いずれ別の機会に譲りますが、それもこれも、「風に吹かれて」第1回で、DNAX時代の宮島研の論文を紹介した縁でしょうか?
(東京大学安田講堂にて向かって左よりTom, Arthur, Roger Kornbergの親子2007/7/23)
新井先生の Kornberg一家の解説に始まり、親子3人の講演後のフロアから出ていた質問は、Rogerに対して親がノーベル賞学者でプレッシャーはなかったのかとか、科学者になるように教えられたのかとか、食卓での話題もサイエンスばかりなのかとか、サイエンスよりは、コーンバーグ科学者ファミリー成功の秘密を探るという観点からのものが多いようでした。日本人大学院生や各国の留学生による国際色豊かな英語による質問に対して、Roger が、耳の少し遠くなったArthurを助け、それは、こういう意味か?と、必ず、質問の意味を解読、わかりやすい英語に「転写・翻訳」し直して確認してから答える姿は、さすがにRNA Polymerase構造決定でノーベル賞受賞の面目発揮といったところでしょうか。
場所を代え、三四郎池近くの山上会館のミキサー会場ではRogerやTomの回りをたくさんの大学院生が取り囲み質問攻めにしても一人一人丁寧に答えている様子も印象的でした。
(東京大学山上会館にて大学院生達に質問攻めに会うRoger Kornberg教授2007/7/23)
Arthur Kornberg先生は翌日には白金の東京大学医科学研究所講堂でも講演され、こちらも満員。将来の科学者を目指す高校生も聴衆の中にいたようです。講演後のフロアからの質問者のひとりが、Arthurと再々婚し今回の来日にも付き添ったキャロラインさんで、「DNA Replication, For the Love of Enzymes, THE GOLDEN HELIXに次ぐ著書執筆のご予定は?」というものでした。身内のサクラ質問とはいえ、嬉しいことに、今秋にGerm Storiesというタイトルで子供向け絵本をUNIVERSITY SCIENCE BOOKSから出版予定であることを教えてくれました。商魂たくましい日本で翻訳出版されるならば「ノーベル賞学者が子守唄代わりに子供達に聞かせていたバイキンちゃん物語。コーンバーグ一家の英才教育の秘密の全貌がここに。」とでも宣伝するでしょうか。
本稿執筆中に、筆者同様にコーンバーグの愛読者で、サイン本を古本屋で偶然手に入れた医師による「研究こそが医学の生命線」という記事を見かけました。ちなみに、彼も「西海岸」在住のようですので、会う機会を見つけてKornberg話で盛り上がりたいものです。本稿を目にしましたら、ぜひ、御連絡を。
ところで、タイトル解読のPostscript。Roger Kornberg 研究室には、ポストドクならぬポストドッグ(Postdog)が勤務?しているのを御存知でしたか? では、また次回お会いしましょう。
(西海岸。)
2007年9月掲載
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