コーヒーブレイク

「昼休みのベンチII」 第30回

『野外へ出よう!』(第30回)  <2013年5月>

   昨年末に自民党に政権が移り、いわゆる「アベノミクス」で、「日本を取り戻そう」の掛け声で、日本全体(一部?)が明るさを増してきております。「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で、長期のデフレを脱却しようとしています。その1つの矢である「成長戦略」の中身に、研究開発・イノベーション創出促進が、挙げられています。もっとも、難しく、日本の社会が持続的に成長を約束するもっとも重要な戦略と言えます。

    そんな折、英国では、「わが国で20世紀の最高のイノベーションは何か」を、英国の科学者の団体が呼び掛け、投票を募ったところ、1位に選ばれたのは数学者チューリングによる「万能機械」の理論だったそうです。この理論は、コンピュターの基本的動作の原点といえるもので、選ばれた理由も納得の行くものです。ただ、多くのノーベル賞を輩出している英国で、ペニシリンの発見のフレミングやDNAの二重螺旋構造の発見者クリックなどよりも、ノーベル賞受賞にならなかった「万能機械」の理論が、評価されたわけです。そこにも、一般英国人の冷静な見識の高さが覗えます。

   アラン・チューリング(Alan Mathison Turing, 1912年6月23日 - 1954年6月7日)はイギリスの数学者、論理学者、暗号解読者、計算機科学者で、同性愛の罪で保護観察の身となり、41歳の若さで自ら命を絶っています。日本では、殆ど、一般には知られていない人物のようですが、昨年は、生誕100周年で、名誉回復の動きが出てきています。

   チューリングの業績の1つに、数理生物学への貢献があります。1952年から、亡くなる1954年までのたった2年間の研究でも、その偉才ぶりが発揮されています。"The Chemical Basis of Morphogenesis"(形態形成の化学的基礎)と題する論文を1952年に発表、形態形成について仮説を提唱しました。1995年に、この仮説を日本の科学者近藤滋教授(大阪大学大学院生命機能研究科)によってタテジマキンチャクダイの体表面の模様がチューリングパターン(下図、Wikipediaより)であることを実験的に確認したことにより、再評価が始まりました。近藤先生のお話は、いつも、新鮮で、話題が尽きません。

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   ゼブラフィッシュ、ヒョウ、シマウマなど生物の体表面の模様の顕れ方の多くが、チューリングパターンによるものである検証が始まりました。さらに、チューリングの業績は、今後、構造生物学、生命システム学などへの広がりが期待できます。タイガーブッシュと呼ばれる樹木、草などによって形成される幾何的なパターンを持つ植物分布で、これも、チューリングパターンとの説もあります。(Wikipediaより)

   数学者、論理学者のチューリングが、生物と出会うことにより、新しい分野を切り開きました。まさに、イノベーションは、異分野の結合によって起こることを実証した訳で、この分野でも「わが国で20世紀の最高のイノベーションは何か」の「万能機械」の理論とともに「チューリングパターン」がありました。

   是非、日本の科学者団体でも「わが国で20世紀の最高のイノベーションは何か」を投票するキャンペーンを行い、アベノミクスの「成長戦略」のイノベーションへの国民的意識を高めていってもらいたいですね。教科書に載っている科学者やノーベル賞受賞者に拘らず、広く選考し、一般日本人の見識の高さを世界に示すことになりますように。

***  お薦め書籍  ***
 

 
僕は君たちに武器を配りたい 

  瀧本 哲史著 講談社 2011.9

   この本が対象とする「君たち」とは、これから社会に旅立つ、あるいは旅立ったばかりの若者のことです。確かに、就活を終え、難関の会社勤めを始めた若者が、すぐに、その会社を辞めてしまう社会問題があります。そのような悩みをもつ若者に向けて、コンサルタントのマッキンゼー社出身らしいグローバルな視点からのアドバイス(武器)を提供しています。おそらく、欧米の教育を受けた者(もちろん、日本人経営者も)にとっては、当たり前のことと思われる「武器」が多く含まれています。たとえば、「自分の頭で考えない人々はカモにされる」、「投資家として、世の中を見て、働く」、「リスクは自分自身でコントロールせよ」などは、資本主義の基本的なことです。もし、貴方が気づかずにいたとしたら、学校教育や家庭では、残念ながら、それを教える者が、今まで居なかったということでしょう。会社を辞める前に、自分の武器を整理して、じっくり、独自の「ゲリラ戦」を考える時間があるのも、若者の「武器」と思います。

(昼休みのベンチ)
2013年5月掲載

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