コーヒーブレイク

「昼休みのベンチII」 第28回

『野外へ出よう!』(第28回)  <2012年12月>

年の瀬の慌ただしい2007年12月25日(火)に、急遽、特別シンポジウム「多能性幹細胞研究のインパクト −iPS細胞研究の今後」が、京都駅前のホテルで開催されました。約1ヶ月前に「セル」誌で発表されたばかりの成果を一般に公開するという異例の早さです。

  Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S.  
  “Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.”
  Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72.

   このビッグなイベントに、3つの会場は、ごった返し、熱気で満ちていました。そんな中、山中伸弥教授の冷静沈着にこれまでの成果を淡々と報告され、「オールジャパン」で推進するという言葉も印象的でした。そして、それから5年、今回のノーベル医学・生理学賞の受賞、本当に、おめでとうございます。これまでの多くの研究者が昼夜、懸命に追い求めてきた研究成果の積み重ねに基づき、この発見につながったというこの成果は、科学者だけでなく、世界の多くの人々に大きな感動を呼びました。そこには、夢を現実にするため、科学の発展を信じ、研究する多くの人々の姿があります。

  その夢や空想を現実にする動機は、どこから湧き上がるのでしょうか。その1つに、SF(サイエンス・フィクション)の世界があります。少年のころ、雑誌や漫画で夢中になった空想の世界です。SFとは、科学的な空想にもとづいたフィクションの総称で、一見、矛盾するようですが、もちろん、その時点では、フィクションにすぎません。




 

 「海底二万里」
  著者:ジュール・ヴェルヌ
  発行日1870年
  ジャンル:SF小説(フランス)





 

 「月世界旅行」
  著者:ジュール・ヴェルヌ
  イラスト:アンリ・ド・モントー
  発行日1865年
  ジャンル:SF小説(フランス)

 
  
  
   しかし、それが、夢や空想を現実にしようとする人たちによって、一歩一歩、現実になっていきます。初めて宇宙旅行を描いたSF小説は1865年のジュール・ヴェルヌによる「月世界旅行」とのことです。そして、数10年後、「宇宙旅行の父」と呼ばれるコンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857–1935年)はロケットで宇宙に行けることを計算で確認し、液体ロケットを考案しました。そして、1969年7月20日には、アポロ11号の船長ニール・オールデン・アームストロングが、月面に降り立ったのです。SF小説「月世界旅行」の発刊から、たった104年で月世界旅行が現実となりました。そして、今では、(財力のある)一般人の宇宙旅行が気軽に行ける時代が来ようとしています。

   来年、2013年は、日本SF作家クラブの創立50年を迎えるとのことで、SF作家の講演会などが催され、静かにSF小説のブームが来ようとしているようです。そんな折、11月に、阿部公房のデビュー前の「幻」の未発表作「天使」が、札幌市内の実弟宅で見つかり、掲載した「新潮」2012年12月号が、異例の増刷となっているようです。精神を病んだ主人公が天使となって病室を抜け出し、妄想の中で天使の国をさまようという内容とのことで、バーチャルリアリティー技術の発展で、疑似体験も夢ではない時代が来ております。

   私は、阿部公房の作品では、『第四間氷期』が印象に残っています。地球のほとんど地域が水没してしまうという未来予測に基づき、人が水中での生活を可能にする方法、密に人工的にエラを付けた水棲人を造ろうという研究が始まる。これも、ぞっとしますが、将来、科学的には可能かもしれないですね。


 

  「フランケンシュタイン」
  著者:メアリー・シェリー
  (1831年出版)の内表紙
  ジャンル:SF小説、ゴシック小説
  (イギリス)

   
   ぞっとすると言えば、SFの代表作「フランケンシュタイン」があります。メアリー・シェリーが1818年3月11日に匿名で出版した小説「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」の日本における書名の一つですが、映画やテレビの方が有名になってしまいました。実は、フランケンシュタインという名前は人造人間の名前ではなく、それを作った科学者の名前(姓)とのことです。この小説にも、科学者フランケンシュタインの「死者に生命をよみがえらせる」願いが込められています。iPS技術の延長上には、このような倫理問題も真剣に議論される時が近づいてきました。

   SF文学には、大きく5つのジャンル (1)宇宙 (2)時間 (3)機械 (4)異世界、異次元 (5)改造人間、動物 に分けられています。映画、テレビ、テーマパークなどで、3D映像の時代になり、より鮮明に、このバーチャルの世界が、現実の世界への融合を迫ってきております。SF映画の映像技術の進展で、現実と虚空の境界の判断がつかなくなる錯覚に陥ります。

   ところで、徐福は始皇帝に,はるか東の海に蓬莱・方丈・瀛洲(えいしゅう)という三神山があって仙人が住んでいるので不老不死の薬を求めに行きたいと申し出て、日本にやってきました。日本の各地に、その言い伝えが残っています。

   それから長い年月が必要でしたが、確かに、日本に不老不死の薬(iPS技術)は、あったのです。徐福は、間違っていなかったようです。三神山は、さしずめ、c-Mycを除くOct3/4・Sox2・Klf4の3因子でしょうか。
医療に大きな貢献をすると思われるiPS技術、そして、その後に続く若い科学者の夢に期待したいですね。一見、サイエンスと矛盾するSFの世界が、少年少女の夢を育むのに貢献していることを忘れてはいけないようです。

参考:
「SF文学」ジャック・ボドゥ著 新島 進 訳 白水社2011.3

***  お薦め書籍  ***

 
『数学で生命の謎を解く』 

  イアン・スチュアート著 水谷淳訳 ソフトバンククリエイティブ社  
 2012.9

   物理、化学は、いろんな有名な公式があり、数学とは身近でしたが、これまで、数学と生物は、理系で、最も離れた存在であったと思います。生命現象を数式で解くには、外部、内部環境、時空的など、あまりにも要因が多く、困難でした。しかし、大量の情報処理技術、立体画像処理などで、次第に、その距離は、近づいてきています。

   生物学は、顕微鏡の発明、体系的分類、進化論、遺伝子の発見、DNAの構造と5つの大きな革命で進展してきた。今、第6の大革命が起ころうとしている。それは、「数学」である。これまで、パイナップル果実の模様、ヒマワリの花など多くに見られるフィボナッチの法則やトラやシマウマの縞模様から、チューリングが提唱した方程式など、次第に、生命の謎が数学によって、解き明かされてきている。
ゲノム情報を駆使するシステムズ・バイオロジーと呼ばれるこの研究領域は、現在、世界各地で、急速な拡がりを見せている。

(昼休みのベンチ)
2012年12月掲載

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