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「昼休みのベンチII」 第26回

『野外へ出よう!』(第26回)  <2012年8月>

   前回の身近な野草の続報です。やっと除草してきれいになったと思ったら、その数週間後には、梅雨の水分と初夏の暑さで、いつの間にかネジバナの勢力が増し、ハルジオンやカタバミに変わり、原っぱを席巻していました。
 
   昔、20年以上も前、研究室の階段の窓際に誰が置いたのか、小さい三角フラスコに一輪、ネジバナが飾られていたことを思い出しました。ネジバナは、小さいながら周りの雰囲気をキリリと引き締めていました。茎もまっすぐ伸び、芯も固く、しっかりしています。暑さで、だらけそうになる気持ちに、文字通り「ネジ」を巻いていたようです。 それにしても、ネジバナはラン科の多年草とのこと、高級感あるランの仲間でも、雑草扱い?で、気の毒です。でも、以前、野生ランのブームの時には、人気があり、注目されたそうです。

   「ネジバナのねじれに関する研究」という報告書があるのを見つけました。当時(2003年)中学3年生の古澤さんが書き、新潟県の知事賞を受賞されています。上越地方のネジバナの群生地を丹念に調べていますので、紹介します。

(1)ネジバナは右巻き左巻きどちらが多いか?
どの地点でも左向きに巻く方がやや多い傾向があるものの、場所によっては、左巻き、右巻きにかたよりがある。

(2)ネジバナの花は何回巻くか。
平均的には3〜4回転ぐらいであるが、全く回転せず、常に一定方向に花をつけるものに対し、終始回転して、15回転以上するものもある。

(3)ネジバナの茎はねじれているか?

   顕微鏡観察による茎の断面図で、ネジバナのねじれは表面的なものだけでなく、茎全体がねじれていると考えられると報告している。

   そして、考察では、なぜ右ねじれより左ねじれの方がねじれやすいかという原因を考えてみると、可能性の一つとして、太陽の動きが、左ねじれにあっているからではないかと推論した。太陽の動きはある場所で見れば、左から右で、これを植物が追いかけるようにねじれた場合、左ねじれである。それによって、左にねじれる方がスムーズになり、その結果、左巻きは増えるのではないかと考えた。

   丁寧な観察と鋭い洞察の素晴らしい報告書です。現在、古澤さんは、地元の中学校で理科の先生をされておられるようです。こんな先生に教えてもらえる生徒は幸せです。いじめはなさそうに思います。

   ネジバナは平安時代からモジズリの名でよばれ、歌にも詠まれています。
「みちのくのしのぶもぢずり たれゆゑに乱れそめにし われならなくに」〔出典:『古今集』 巻十四・恋四(七二四) 源 融〕

(訳)陸奥の信夫で産する「しのぶもじずり(忍捩摺)」の模様のように、私の心は忍ぶ思いに乱れはじめてしまいました。私のせいではありません。ほかならぬあなたのせいですよ。

   当時も東北(みちのく)が貴族の間ではブームだったようです。作者の源 融(みなもと の とおる、822-895)は加茂川のほとりに「河原院」という名の邸宅を構えて、河原左大臣と呼ばれましたが、また、彼はまだ寂しい場所であった「宇治」に別荘を設けました。その息子の代に別邸は寺となり、「平等院」と呼ばれるようになり、現在の至っているようです。源 融(河原左大臣)は宇治文化隆盛の元祖のようです。昔から、政治家は、箱物の増築に熱を上げるようですね。

   十円硬貨の絵柄でおなじみの今も人気のある平等院鳳凰堂。富士山と同様、見ない日のない絵柄です。この日は、終日雨でした。

参考:
「ネジバナのねじれに関する研究」 古澤結理


***  お薦め書籍  ***

 
 『選択の科学』

  シーナ・アイエンガー著 櫻井祐子訳 文芸春秋 2010.11

  著者は、両親の代で、インドからの米国へ渡った移民で、シーク教徒、全盲、女性という境遇にも関わらず、米コロンビア大学教授となり、多くの支持者を持ち、講演などで活躍中です。果たして日本で、このような方を社会が受け入れ、活躍できる機会を与えることがあるでしょうか。米国の個人の能力を尊重する社会と著者のひた向きな努力に敬意を表します。訳文も非常に読みやすく、訳者の力量が伺えます。
「自分のことを少し振り返ってほしい。何かを選択するとき、あなたが真っ先に考えるのは、自分が何を求めているのか、何があれば自分は幸せになるのか、ということだろうか?それとも、自分だけではなく周りの人たちにとっても、何がベストかを考えるだろうか?この一見単純な問題が、国の内外を問わず、すべての文化や個人の大きな違いの中心に潜んでいる。」
この言葉は、確かに言い当てています。社会的な国際紛争、経済問題から犯罪、自殺、いじめなど個人の諸問題まで、すべては、人間のこの内面の選択から生まれています。

(昼休みのベンチ)
2012年8月掲載

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