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「昼休みのベンチII」 第21回

『野外へ出よう!』(第21回)  <2011年10月>

  今年の数少ないうれしいニュースには、FIFAワールドカップドイツ大会での「なでしこジャパン」の優勝が挙げられます。中でも決勝戦のアメリカ戦の劇的な終幕、残り3分、宮間選手のコーナーキックに走り込んだ澤が右アウトサイドで合わせ、ゴール!2−2に追いついた。澤、宮間両選手は、練習した結果と言っていますが、予測できるものではありませんでした。PK戦前には、監督、選手達の笑顔が見え、全員が一つになっている姿が映りました。対戦相手の米国のローレン・チェニ―選手は、「なでしこに敬意を表したい。彼女たちは日本をとても幸せにした。日本にもたらされた喜びは今とても必要とされているものだ。」とコメントし、東日本大震災のお見舞いの言葉をほのめかしました。

    男子は、岡田ジャパンとか、ザックジャパンと監督名を冠して、呼ぶのですが、女子は、佐々木ジャパンと言わずに、なでしこジャパンとマスコミは言います。そこには、控え目で、賢く、しっかりもの(さらに美人)という「大和撫子(やまとなでしこ)」気質が現代にも脈々と引き継げられている?ことを意識しているのでしょうか。

    「なでしこ」とは、カワラナデシコ(Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.) F.N.Williams)のことで、ナデシコ科ナデシコ属の多年草。小さく可憐な花の姿が可愛らしく子供のようであり撫でたくなることから、撫子と名付けられました。日本では本州以西四国、九州に広く分布し、朝鮮、中国、台湾にも分布するそうです。花言葉は、貞節、純愛、思慕で、母の日に贈るカーネーションも同じ仲間とのことで、女性への思慕は共通でしょうか。
 
  今回は、その「なでしこ」も入っている「秋の七草」の話です。その「秋の七草」を探しに近郊に出かけました。下記は、その時の写真です。

「秋の七草」は、万葉集に遡り、山上憶良が詠んだ下記の2首の歌がその由来とのことです。

秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花(万葉集・巻八 1537)

萩の花 尾花(すすき) 葛花(くず) 瞿麦(なでしこ)の花 姫部志(をみなへし) また藤袴(ふじばかま)朝貌(ききょう*)の花(万葉集・巻八 1538)


*朝貌の花が何を指すかについては、朝顔、木槿(むくげ)、桔梗、昼顔など諸説あるが、 桔梗とする説が最も有力とのことです。
したがって、万葉集には、「秋の七草」を詠んだものが多くあります。


手に取れば、袖さえにほふ 女郎花 この白露に 散ちらまく惜おしも  (万葉集・巻十 2115) 

取り上げてみると、袖までも華やかに見える女郎花の花が、この露のために、散るのは惜しいことだ。

(女郎花 おみなえし)



妻恋ひに 鹿鳴く山辺の 秋萩は 露霜寒み 盛り過ぎゆく
(万葉集・巻八1600) 石川広成

妻に焦れて鹿の鳴く山の萩は、秋の末の露の冷たさに、盛りが通り去って行くことだ。
(白萩)


我が屋戸に蒔きし撫子いつしかも花に咲きなむなそへつつ見む   (万葉集・巻八1448) 山上憶良

自分の屋敷に蒔いて置いたなでしこよ。早く花となって咲き出してくれ、せめて恋い人に擬して、慰んで見ていよう。

秋の野の  美草(みくさ)刈りふき  宿れりし 宇治の京(みやこ)の  仮いおし思ほゆ  (万葉集・巻八1448)   額田王  

以前、野の薄を刈って、屋根をこさえて宿った事のある、宇治の行宮の仮小屋の容子が思い出させる。 (美草=薄)


 推古天皇は冠位十二階を定め、その色も決めましたが、最高位の大徳 (だいとく)の色は(古代紫)濃紫でした。秋の七草には、その紫色系の花は、萩 、桔梗 、撫子(石竹色)、葛、藤袴 の5つがあり、高貴な色と草花の嗜好が似ているのではないかと思いました。日本の伝統色の繊細さも驚かされます。http://www.colordic.org/w/

  万葉の時代から、果たして、思いやり、精神的、感覚的に日本人は進化してきたのでしょうか。秋の七草を、一日、里山を歩けば、すべてを見つけることができる環境に戻ってほしいものです。現代人に深まる秋にもの思いにふけ、ぼんやりする時間も必要と思います。

参考図書
1. 「万葉集」 上下 折口信夫 訳 河出書房新社 万葉集の訳を青字で引用しました。

***  お薦め書籍  ***

 『京都うた紀行-近現代の歌枕を訪ねて-』
   河野裕子・永田和宏 著  京都新聞社 2010.10

 歌人河野裕子(末期がんと闘いながら執筆され、昨年8月逝去)が、夫の歌人で、細胞生物学者の永田和宏(京都産業大学教授、京都大学名誉教授)と共に、「近代・現代の歌人」の足跡を辿り、京都と滋賀にある「50の場所」を訪ね、その場所を詠んだ短歌の紹介をしている。
「加茂川」の部分で、

 (引用)人には、生涯に一度しか見えない美しく哀しい景色というものがあるとすれば、あの秋の日の澄明な鴨川のきらめきが、わたしにとってはそうだった。
「来年もかならず会はん 花棟(はなあふち) 岸辺にけぶるこのうす紫に」        (河野裕子)

 私には鴨川の近くに親戚の家があり、子供の頃、水浴びを子供たちがやっていた夏の日の鴨川のきらめきの情景が浮かびます。

(昼休みのベンチ)
2011年10月掲載

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