コーヒーブレイク

「昼休みのベンチII」 第15回

『野外へ出よう!』(第15回)  <2010年10月>

   米国のGPSを補う準天頂衛星の初号機「みちびき」が9月11日、国産大型ロケット「H2A」18号機で宇宙航空研究開発機構種子島宇宙センターから打ち上げられ、成功した。まだ、限定的ですが、「みちびき」は2種類の補強信号を発信して、その測位精度はそれぞれ約1メートルと約3センチで、既存のGPSの約10メートルから大幅に向上するという。「はやぶさ」に続き、確実に日本の宇宙開発技術のレベルが上がってきていることを証明しました。国産ロケットの打ち上げ成功、連続12回で、成功率94.4%と、欧州を抜き、米国に次ぎ、2位となりました。

JAXAトピックス
 http://www.jaxa.jp/projects/sat/qzss/index_j.html

  その技術の背景に、日本企業の開発したスーパーコンピューターの貢献があります。ロケットエンジンの解析、衛星軌道シミュレーションなどで、宇宙開発の分野で、その成果を、十二分に発揮してきている。その他の先端技術分野でも、スーパーコンピューターは、複雑な多要素の因子から起こり得る予測、シミュレーションを行い、実際に実験を行わずに、大きな結果を出してきている。そのコスト削減効果は大きいと思います。また、あまり、強調すると、周辺国を刺激しますが、国防の基本技術でもあります。スーパーコンピューター開発の関係省庁の方には、「二番ではダメなんです、国益が守れません」としっかり説明して頂きたいですね。

  スーパーコンピューターの利用の1つに、なじみ深い天気予報があります。一と昔前と比べ、明日の予報は、ほとんど正解と言えるほど、随分とその的中率は上がりました。ただ、季節の予報となると、まだまだです。今年の夏の猛暑は、どこまで予測できたでしょうか。熱中症の患者が約5万人、全国からクーラーのない部屋で、老夫婦が亡くなっていたという悲惨な事態の新聞報道がありました。

   気象庁は、この夏の異常気象分析検討会(WEB 会議)を平成22年9月3日に開き、2010 年夏(6〜8月)の日本の平均気温は、統計を開始した1898 年以降で最も高くなった北半球中緯度対流圏の気温が記録的に高かった。2010年夏の後半、日本付近の亜熱帯ジェットが平年と比べて北寄りだった。また、日本付近でジェットが北側に蛇行しやすかった。オホーツク海高気圧の影響をほとんど受けなかった。以上をまとめた報告を行ったそうです。こんな会議があることも知りませんでした。

 でも、それを聞いて「そうでしたか。」というしかありません。                                 出典:気象庁ホームページ

  この猛暑の影響で、稲刈りの時期が早まっているほか、水稲に被害を及ぼす「斑点米カメムシ類」が平年の倍以上発生し、病害虫防除所が注意を呼び掛けています。出穂期の稲穂の養分を吸い取る虫で、コメに黒い斑点が発生するそうです。また、来年の春には、スギやヒノキの花芽がよく成長するため、花粉が大発生すると今から予測する人もいます。今から「マスク」を買いだめしておきますか?

  宇宙では、シミュレーション予測が正確に出せるのに身近な地表近くの気象の動きには、スーパーコンピューターもまだまだ、歯が立たないようです。

  株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長の所 眞理雄氏は、巨大で複雑な問題を生きたままあるいは稼働したまま解いてゆくには、解析的な視点と合成的な視点に加え、運営的な視点を最初から入れて、これらの3つの視点を融合した形で解いて行かなければならない、と言うオープンシステムサイエンスの方法論を提唱しています。

  この理論とコンピュータ技術で、現代社会の複雑な問題、気象異常、地震予知、発癌予防、循環器系疾病、認知症などの解明が期待されます。個人的には、株や為替のシミュレーション予測のソフトの開発をお願いしたいですが、世界中の人間の個々の心理状態、判断までは、無理でしょうね。

  地球には、この複雑な要因のおかげで、多くの種類のウイルス、微生物、植物、動物が生息しています。このエッセイが、皆さんに、読まれるころに、カルタヘナ議定書第5回締約国会議第10回生物多様性条約会議COP10(Conference of the Parties)が、名古屋(国際会議場)で10月11日(月・祝)〜29日(金)の間、開かれます。多様な生き物や生息環境を守り、その恵みを将来にわたって利用するために結ばれた生物多様性条約です。世界の人々が注目する会議です。その目的は下記の通りです。ライフサイエンスの科学者のみなさんも、他人ごとではないですね。

(1)地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
(2)生物資源を持続可能であるように利用すること
(3)遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること 


  写真(ウーパールパー)のような生物が地球上にたくさんいます。守ってやれるのは、人間しかいませんから。中でも科学者の責任感と行動力が重要です。
参考図書
地球温暖化予測がわかる本(スーパーコンピュータの挑戦)近藤 洋輝 著  成山堂書店

***  お薦め書籍  ***

 『平成22年版 科学技術白書
   文部科学省 編集 2010.6

  「価値創造人材が拓く新たなフロンティア 日本再出発のための科学・技術の在り方」という副題が、興味深くつい買ってしまった。民主党に政権交代して初めての科学技術白書で、この副題が、そのことを、物語っています。「ハード」から「ソフト・ヒューマン」への転換を謳い、人材の重視が強調されています。また、「日本再出発」という言葉も気になりますね。「再出発」は、民主党のみなさんには、理解できますが、科学技術に携わっている人たちは、何も「日本再出発」を意識していないのではないでしょうか。

   さて、中味ですが、論文数シェアで、日本は、2位(1998)から5位(2008)に、中国が2位に躍進。自然科学系の博士号取得者数で、日本は、米国、中国、ドイツ、英国、インドの次で、全体の1.8%となっている。(2006)人口100万人当たりの同数字は、先進国中最下位で、韓国にも及ばない。大学発ベンチャーの設立数も、平成16年度(247)をピークに、平成19年度(128)まで激減している。「理系ばなれ」の風潮が続き、科学技術立国を目指す日本の現状は厳しい。やはり、「日本再出発」しなきゃいけません。

(昼休みのベンチ)
2010年10月掲載

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