コーヒーブレイク
「昼休みのベンチII」 第12回
『野外へ出よう!』(第12回) <2010年4月>
2月に上海、蘇州に行ってきました。上海市内は、急ピッチで上海万博(5月1日-10月31日)の準備が進められており、今までに増して、マンションの建築ラッシュが激しくなっています。相変わらず空は黄砂と煤塵で青空は見られません。でも、上海の人々の表情は、豊かで、誇らしげに見えました。一人っ子政策で育った上海の青年達の関心事は、欧米の流行服や自動車でなく、マンションの購入とのことでした。親のマンションから独立して、結婚するために、必要不可欠とのことです。いずれこの不動産バブルがはじけるという不安を理解しつつ、懸命にマンションの購入のために貯蓄に励んでいるそうです。そこには、いずれ、両親が亡くなり、空いたマンションを賃貸にすれば、それだけで生活していけるというもくろみがあるとのことです。
観光では、上海の高層ビルより蘇州の疏水(写真上)の方が、趣があります。
日本のITバブル、米国の金融、不動産バブルに続き、中国でも不動産、マンションバブルが起こるのでしょうか。ところで、バブルの起源は、オランダで起こった「チューリップ・バブル」だそうです。チューリップの原産地は、オスマン帝国のトルコで、ターバンが語源だそうです。そのオスマン帝国から輸入されたチューリップの球根の品種改良品に投機家筋の間で、異常な値が付いたのです。そして、その狂気は、一般庶民へも広がった。しかし、所詮、球根です。1637年2月3日、その値は、一気に100分の1に急落しました。bulb(球根 バルブ)だから、バブルは、始めから分かっていたこと?
この原稿が出るころには、春、らんまんで、チューリップの花が咲いていると思います。童謡シリーズ第五弾、今回は「チューリップ」です。♪・・・咲いた、咲いた、チューリップの花が、ならんだ、ならんだ、赤、白、黄色、どの花見てもきれいだな♪(作詞 近藤宮子、作曲/井上武士)昭和5年 近藤宮子は、「どの花みても/きれいだな」という歌詞について、「なにごとにも良いところがあるものです。とくに、弱いものには目をくばりたい、という自分の思いを「チューリップ」の歌に託したとのことです。この簡単な歌詞にも、平等、博愛という鮮烈なメッセージが隠されているのですね。そんなチューリップには、バブル崩壊という平等、博愛とはかけ離れた悲劇の歴史がありました。
そう言えば、昨秋、庭に植えたチューリップの球根は、どうなっているか、見てみるとすでに、出芽しており、地中から顔を出していました。2月28日(下図左)、ようやく、つぼみが出てきました。3月30日(下図中央)、原稿締め切り日に間に合わせてくれたようです。4月6日(下図右)。
冬眠からの覚醒には、夏の高温での花芽形成、そして、秋からの一定期間の寒さ、その後の温度上昇が必要とのことです。チューリップの原産地は、夏と冬の寒暖差が大きい地方、トルコとのことですので、納得です。土の温度上昇により、スイッチが入り、鱗葉や花芽が成長を始める。そこには、温度センサーと時間の要素が必要になります。スイッチのメカニズムの解明が待たれます。
チューリップ球根は、鱗茎(bulb)と言い、ユリや玉ねぎと同じで、葉の基部もしくは本来、葉になるべき芽が肥大化したものとのことです。基盤部の花芽のすぐ近くの腋目が次年の球根になるとのことです。開花後、掘り上げられた球根は、夏の高温に曝され、内部では、頂芽に花芽を形成して、発達していくそうです。球根は、夏の暑さにも、冬の寒さの中でも着々と、来るべき時の準備をしています。不適環境下での自己防衛機能と言われる「休眠」も、本当は、休んではいないのです。
球根図 : .「球根の休眠」大久保 敬 化学と生物 Vol.33No.9(1995)
チューリップ球根の冬の過ごし方の論文抄録2題を紹介します。
チュ-リップの球根の休眠打破には低温期間を必要とする。低温で誘導される休眠打破関連因子を解明するため,球根組織中の水の動態変化を非破壊的に1H-NMRによるプロトン密度とスピン-格子緩和時間(T1)を測定した。球根の低温処理により,球根実質組織の内部で移動水のシグナル強度が上昇したが,非冷却球根では移動水が認められなかった。低温処理した球根の貯蔵時の呼吸数は非処理球根の場合の半分に抑制された。低温貯蔵時には球根の実質組織に水の再分布が起こり,周辺温度に移行すると呼吸数が上昇から生成水量の増加して,球根代謝活性が強化された。この相乗効果が植栽後の花梗の急成長を促すものと考えられた。IWAYA-INOUE M, MOTOOKA K, WATANABE G (Kyushu Univ., Fukuoka) 低温生物工学会誌 Vol.44 No.1 Page.21-28 (1998.08)水が関与しているようです。
秋植え春萌芽型花き球根植物は冬期間に根に養分を集積する性質を共通にもつ。チュ-リップは冬期の寒冷な地中でも球根の貯蔵炭水化物をエネルギ-源として窒素,リン,カリウムなどを活発に吸収して根にグルタミンなどの低分子成分として高濃度に蓄積する。養分は4月以降,花,花茎に移動し約半分は新球根に回収される。大山卓爾 (新潟大農) 農業および園芸 Vol.71 No.10 Page.1132-1140 (1996.10) 懸命に養分を根に集積するように地中では春の準備に忙しいようです。
また、多くの植物の種子発芽に好ましい温度条件の1つとして、2種以上の温度を周期的に交代させる温度効果が知られているそうです。初冬の小春日和や春先の三寒四温や寒の戻りと呼ばれる周期的な温度変化に種子は感知しているようです。温度センサーと時計を持っているのです。「春の海、ひねもす、のたりのたりかな」、朝、いつまでも寝床から出られない貴方、一度、布団をめくって温度を下げてもらうと目が覚める(発芽)のでは、ないでしょうか。
参考図書
1. 「球根の休眠」 大久保 敬 化学と生物 Vol.33No.9(1995)
2. 「植物の休眠と発芽」 藤伊 正 著 東京大学出版会
3. JDreamⅡ 科学技術振興機構 情報検索
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「科学者たちはなぜ見誤るのか」という副題につられてつい買ってしまった。作家気取りの文章は、ちょっと、引きますが、「マップラバー(map lover)」と「マップヘイター(map hater)」の話から、ジグゾ―パズル、細胞の分化へつながる話は、さすがです。「マップラバー」とは、地図で自分の位置を確認しないと行動が始まらない人で、「マップヘイター」とは、まったく、地図をたよりにせず、自分の行きたいところへ行く人です。一見、行き当たりばったりのように思いますが、その内、目的のところへ行き着くのです。あなたは、どちらですか。細胞は、後者で、全体の設計図を持たず、隣接する細胞との情報交換で、自らなるべき器官へ分化していくのだそうです。こうした科学者が一般人に科学の面白さを伝えることが、必要で、重要な時代になってきました。事業仕分けのおかげでしょうか。
(昼休みのベンチ)
2010年4月掲載
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