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「再五 西海岸。の風に吹かれて」 第37回

第37回 分子「古寄」学  <2013年1月>

   みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。

  新しい年が明けましたので、本エッセイも数え年風に1歳齢を重ねて、「最五」にバージョンアップしました。2007年の1月号から書き始めましたので、満6年たったのに、なぜ「五」なのか、筆者も不安になったのですが、バックナンバーをたどってみたら、二年目が「続」でその後、「続々」、「また」、「再三」、「再四」と続けてきたので、今回は、七年目ですが、「再五」となります。さすがに、ワープロも「再五」とは一発変換しませんので、「最後」とならないように、こころがけたくは思います。

  昨年末に、ある読者の方から、いろんなつてをたどった末に、私宛に、「西海岸。さんの文章は、年齢も所属も性別も不詳で、文体から筆者は女性と思っていました。」とのメールをいただきました。私自身は、別に、性別を秘した文体を使っていたつもりはなかったのですが、その方が、少なくとも、「小学教師=女性」、「大学教員=男性」というような固定観念を持っておられなかったことは確かですね。私の性別は、はて、どちらなのでしょう。

  さて、今回のタイトルは、分子「古寄」学としました。検索してみると、古寄(ふるよせ)という地名や、ごくまれには人名にもあるようですが、一応、「こき」と読んでもらうことにして、造語です。この年末年始に、書棚に収まりきらなくなった書籍(古本)を、一部処分することにしました。今までも、古本屋ではなく、いわゆる、「新古書店」というジャンルの店に、古本を持ち込んだ経験はあるのですが、そういうところは、発行2,3年以内かコミック本の取り扱いが主で、「西海岸。」が、大学生時代から捨てられず持っているような「本当に古い本」や専門書はほとんど値がつかず、かといって、古紙としてリサイクルに回してしまうまでの踏ん切りはつかずに、ずっと、持ち越してきたのです。しかし、今回は、「古本」を売るのではなく、「寄付する」というシステムに乗せてみたら、数百冊ばかり思い切って処分ができましたので、「古本寄付」の省略形で「古寄」譚です

   「寄付」といっても、直接、学校や図書館とか施設などに持ち込むのではなく、ある種の古本屋さんの中には、宅配便の着払いで古本を受け付けてくれて、「査定額」を、たとえば、こちらが指定する大震災被災者などの援護ボランティア団体等に、換金して寄付してくれるシステムがあることを知りました。その古本屋さんもボランティアの一員ですね。最初、こういうようなシステムを知るきっかけになったのは、2,3年前に、母校の大学の同窓会組織から、同様のシステムで母校の基金に寄付しませんかという案内があったからです。その時には、確かに、母校のお世話にはなったけれど、今勤めている大学に比べたら、はるかに大きなステータスを持ち、いろいろ優遇されており、むしろ、こちらが寄付してもらいたいものだというくらいな気分でいたので、そのままだったのです。今回、あらためて調べてみると、「本当に困っている人」に、同じシステムで、古本の始末に困っているという贅沢な悩みの「西海岸。」が、わずかばかりだが役立てるかもということで、試してみた次第です。古本というのは、ほとんど、いわゆる二束三文でしか売れないことはわかっていますが、自分で売るとなると、やはり、それなりに高く売れないと、なんとなく損した気分になってしまいますが、寄付するとなれば、まあ、こちらが贅沢いうのも、それこそ、贅沢な話というところです。>

   今回は、初めての試みで、少しシステムが異なる2社に送ってみました。母校からの紹介がきっかけで知った最初のV社は、とにかく合理的な仕組みで、送りたい古本をミカン箱程度のダンボール箱に詰めて、箱数と、宅配業者に集荷してもらいたい希望日時やこちらの住所連絡先、それから寄付したい相手先のボランティア団体名をネット上で書き込むだけ。自宅までちゃんと宛先も印刷した着払い伝票を運送業者さんが持参して、運んでくれます。ただ、受け付けてくれる本に条件があり、ISBNコードという最近の本なら裏表紙に必ず付いている番号がある本しかだめとのことです。たぶん、査定も全部、機械的に行うためでしょう。したがって、せいぜい10〜20年くらい前までの本のうちから、まずは、ミカン箱5箱分を送ってみました。送料が相手持ちなので、気が楽なのですが、査定価格がつかなかったら、ただの古紙ゴミを送りつけたことになってしまうので、やや心配でしたが、集荷が年末の12月28日だったのに、大みそかの31日には、ちゃんと査定額をメールで連絡してくれました。本の冊数も数えずに送ったのですが、244冊と教えてもらいました。指定団体への送金もすべておまかせですが、もともとは、母校が採用している会社なので、その点で信用することにしますし、何か事故があっても、少なくとも、こちらの懐が痛むわけでもなしというところです。査定額は、元の購入価格の〜1%程度というところでした。
 
   さて、残るは、ISBNコードがついていない大量の古本です。学生時代に買い込んだ洋書の専門書だけでも何箱分もあります。愛着はありますが、もはや研究上の価値はないです。調べてみると、今度は、どんな古い本でも、洋書でも引き受けてくれ、特に「西海岸。」にとってうれしいことに、「専門書」や「科学書」の取り扱いを得意とするというN社がみつかりました。買い取るだけの古書店は、もちろん、何社もあるようですが、ボランティア寄付を扱ってくれるところは、そう多くはないようです。こちらも着払いで送れるのは同じですが、伝票の宛先等は自分で書かないといけません。今度は正月早々、勢いに乗って、どんどんと箱詰めして、末広がりの八の縁起をかついで、8箱にしました。でも伝票は1枚だけでOKとのことで安心しました。本ばかりですからひと箱20kg超えるくらい。着払いとはいえ、送料だけでも数千円です。少なくとも宅配業者の売り上げには貢献しました。今回も、相手に赤字が出ないか心配でしたが、新年早々の4日に発送して届いた1月6日の日曜日には、もう査定額を連絡してきました。今回は元々の購入価が高い専門書ばかりだったので、査定額も送料をはるかに上回り、前社よりは高めでした。評価額が高いかどうかは判定しようがないですし、自分の口座にはいるのではなくても、寄付でももちろん高い方がうれしいですが、こんなものかな。この会社からは、親をなくした子供たちへの奨学金などを扱っている3団体に分割して寄付してもらうことにしました。

  どちらの会社も、査定額がつかなかった売りものにはならない本でも、できるだけ、引き取り手のある施設や団体などに寄付してくれたうえでリサイクルに回すそうです。いずれにせよ、自分は、家の中で本詰めしてネットにアクセスするだけ、寄付といっても、本当に本当にわずかな金額ですから、寒空の中でボランティア活動しておられる方々から見れば、私自身の偽善的な自己満足にすぎないとは思うのですが、ネット上で見る限りは、このシステムの利用者はまだまだ限られていると思うので、まだ知らない方には知ってもらえたらと私の体験を紹介してみました。もちろん、どちらの会社も推薦したり保障したりする立場ではないので、興味を持たれた方は、みなさん、ご自身でお調べください。また、春の卒業や引っ越しの時期にも活用できると思います。

   さて、分子「古寄」学でした。別に、今回のエッセイに限ったことではないのですが、いったい、どこが分子**学なんだい、学問の香りもないという内なる声も聞こえてきます。お答えしましょう。2社目のN社宛に8箱目のダンボール詰めをしてたら、どうにも、1冊はみ出てきて、粘着テープを貼る蓋がうまく閉まりません。その書名をみたら、副題に、分子人類学序説なんとかというタイトルがついています。買っただけで読んでもいなかったし、これからもまず読むことはないと思って、寄付本にいれたのですが、無理に詰めるのはあきらめてぱらぱらと後書きを読んでみると、この著者さんが、30年近く前に、不惑すなわち、40にして惑わずの40歳の年に著した初の著書とのことでした。分子**学で、こんなささやかな書き物をしている「西海岸。」に、おい、人身売買ならぬ、人類売買は、勘弁して、もう少しだけ、家においておいてくれと呼びかけられたようですので、もうしばらくは、惑わず書棚に納めて、「人類」の行く末を、分子的にも学ばせてもらおうかと思っています。面識はない方ですが、これも、「古寄」学が縁で、来年あたり、「古希」をお祝いすることになる、その関係者の方から、もしかすると、メールが届くかもしれません。みなさんも、どうかお元気で。

(西海岸。)
2013年1月掲載

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