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「再四 西海岸。の風に吹かれて」 第35回

第35回 分子「曙覧」学  <2012年9月>

   みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。
 今回のエッセイタイトルは、最初は、分子「和飲」学、もしくは、分子「輪飲」学とでもしようかと考えて、本欄担当のTK氏にも予告していました。「わいん」学と読みます。ワインにはなんの見識もないのですが、たまたま8月末に山梨大学(シンボルマークがブドウの房と太陽を表してワイン色とあわせ、なかなかグッドデザイン)に出かける所用があり、大学付属「ワイン科学研究センター」の醸造工場見学の機会にも恵まれ、ワインとブランデーの「官能検査実習」の一端も教示いただいたので、敬意を表して、ワインの当て字ででも宣伝をと思ったのですが、念のため検索してみたら、北京市内に、類似名称のカフェがあるらしく、遠慮しました。

    という訳で、急に、ワインとも縁もゆかりもない、読みにくいタイトルになってしまいましたが、ワインネタは、あとで出てきますので、お楽しみに。本タイトルは、江戸時代幕末の福井生まれの歌人の橘曙覧(たちばなの あけみ)の名前から借りています。この歌人のもっとも有名な一首に、「たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無(なか)りし花の 咲ける見るとき」が、ありますが、まさに、この夏は、毎朝、ベランダに咲く、数輪の朝顔を見るのが猛暑の中でも一涼の楽しみとなりました。前述のTK氏が、先月の編集記に、ゴーヤの栽培の話題にふれていましたが、我が家も、この2、3年、緑のカーテンとして、ゴーヤと朝顔をプランター栽培していたのです。今年はゴーヤの育ちが悪いのに、朝顔だけは着々と育って、お盆過ぎからは、次々と開花してくれます。今年は、橘曙覧生誕200年とのことで、福井市橘曙覧記念文学館企画展が開かれているので、今月中には行ってみようと思います。

   橘曙覧のような優雅な心境にまでは至りませんが、今回の、山梨大学出張でも、思いがけず、まさに、私の人生には「昨日まで無かりし」花ならず人との出会いがありました。出張の副産物は、移動中は電話や突然の来客にわずらわされることなく、読書や考え事などに専念できるところでしょうか? 今回は、片道6時間半の電車の旅となったので、お供に数冊の本を持参しましたが、そのうちの一冊が、新しい出会いのきっかけになりました。その本は、「研究費が増やせるメディア活用術」(丸善出版)という、山本佳世子という新聞記者さんが書いた新刊書です。

   まあ、なんとも即物的な世知辛いタイトルで、象牙の塔に生息する品性いやしからぬ高尚な学者なら、まずもって見向きもしない本ですが、さもしい私は、出張往復途上でも、研究資金獲得策(と当然その先によき研究の推進)のヒントが得られれば、と手にとった次第です。なにせ、出張の本題となった会合の席上でも、「税金を使って出張してきて、延々とこんな議論をしていていいのか」と全国から集まった国立大学教員数十人同志で暑い激論?が交わされた次第で、昨今の大学教員は常に「(すぐにも?)役に立つことをしないと納税者の方に申し訳がたたない」というプレッシャーをひしひしと感じています。

   さて、その本の中に、山梨大学のT副学長のエピソードが出てきました。元、民間企業技術者から山梨県庁職員となり、産学連携に関するコーディネータの経験もあるユニークな経歴をお持ちということで、後述の難題プロジェクト解決のために、米国出張中に、現地から三時間電話して成功にこぎつけたというなんとも熱血漢的なエピソードが、頭の片隅に残っていたのですが、今回の出張は、副学長に会うのが目的ではありませんでしたから、そのまま鞄にしまいこみました。

   しかし、なんと、参加した会合の夜の「情報交換会」の冒頭のあいさつに、そのT副学長さんが出てこられました。私は、さっそく、乾杯が終わるのを待ち構えて、会場の片隅で、この本に紹介されていた方と同一人物であることを確かめ、本を片手に、「失礼ながら、今朝まで存じ上げていませんでしたが、この本でご高名を拝読しましたので」と名刺交換をさせていただき、同席のS副学長ともども、しばし、山梨大学ブランドの
オリジナルワインの杯を傾けながら楽しい語らいができました。こちとら、しがない田舎大学のヒラ教員、あちら、大学役員ですから、普通ならば、通り一遍のあいさつで終わってしまうところですが、この本の出会いのおかげで、お互いのバックグラウンドにも若干の共通点があることもあり、意気投合して、新しい共同研究が生まれ、素晴らしいプロジェクトをたちあげ、高額研究費も獲得!となれば、この本を読んだ甲斐もあろうというところでしょうが、そんな、「ありがち」の話は一酔の夢として、ワイン樽の中でじっくりと熟成させておくとして、少なくとも、この記事を読んだ人が一人でも山梨大学プランドワインに興味を持って、購入すると、山梨大学には、ウン%のロイアリティが入る仕掛けになっているそうですから、「(山梨大学の)研究費が増やせるメディア(TOYOBOメルマガ)活用術」としての意味はあったのかもしれませんね。まさか、著者の山本さん、こんな活用法まで想定していたでしょうか? 今回、面識のない著者ご本人のブログも初めて拝見しましたが、初著書でだいぶ評判を気にしておられ、書評やブログ等を、せっせと検索しておられる、ご様子だったので、この記事にも気づかれたら、ぜひ「西海岸。」までご連絡ください。

   さて、山梨大学には、ワイン研究「だけ」に行ったわけではなく、燃料電池ナノ材料研究センターも視察させていただきましたが、このセンターは旧知事公舎の敷地を無償で借りて運営しており、この土地借用にあたって、T副学長の辣腕が発揮されたとのことでした。
 
   今回は、「西海岸。」から、海のないのにヤマナシ県への出張でしたが、実りの多いものでした。下山してきたら、さっそく世間は、大学の運営交付金がうんぬんと騒ぎになるようですが、文部省(当時)の資金で 実用化研究なんて、もっての他と騒いでいたのもたった!20年前の話だというのは、「西海岸。」の第7回、
分子「リセット」学でご紹介したところ。じたばたせずに、みなさんも、どうかお元気で。

(西海岸。)
2012年9月掲載

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