コーヒーブレイク
「また、西海岸。の風に吹かれて」 第22回
第22回 分子「擦過」学 <2010年7月>
みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。今回は、分子「擦過(さっか)」学としました。日本中を熱狂の渦に巻き込んだサムライジャパンのワールドカップサムライ「サッカー」にちなんだもので、スポーツをしない私のかたわらにも、爽やかな風を吹き込んでくれました。
しかし、あのブブゼラというのでしょうか、ラッパのような応援楽器の大音響には参りました。ラッパのひと吹きを英語でblastというようですが、blastには、一陣の風の意味もあります。「風に吹かれて」のタイトルを掲げている以上は、いったい、あの青きサムライ達の遺伝子は、どうなっているのか、にわか仕立ての「BLAST占い」でタンパクデータベースに検索語を蹴り込んで解析してみましょう。「BLAST占い」なんて初耳でしょう。そうです。遺伝子やたんぱく質の相同性を検索するBLASTサーチの「西海岸。」風の呼び方です。バーチャル占いの館には、たとえば、以下のサイトを使います。検索したいアミノ酸配列を入力すれば、データベース化されている全たんぱく質の配列に対しての検索結果をたちどころに表示してくれます。
http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?CMD=Web&PAGE_TYPE=BlastHome
まずは、サムライSAMURAIを占いましょう。それぞれのアルファベットをアミノ酸の1文字略語に見立てて入力します。ただし、Uは存在しないので、Victoryを呼び込むV=Valineに代えて、SAMVRAI=Ser-Ala-Met-Val-Arg-Ala-Ileの7アミノ酸の連続配列を持ったたんぱく質を探しますと、たとえば、 Streptomyces scabiei のputative DNA-binding protein の 96 番から102番が SAMVRAI の配列を持つことが分かりました。
これで気を良くして、サムライの勝利(V)で一文字加えてSAMVRAIV配列では、どうでしょうか? 今度は完全相同な配列は見つかりませんが、Corynebacterium lipophiloflavum のpossible p-aminobenzoyl-glutamate transporter AbgTの 121-128番の SAMVRAMV とは7文字目のみ異なり、8アミノ酸中7アミノ酸7/8 (87%) の相同性で、勝率?87%と 我田引水の占いをする訳です。
こうなると、本田圭介選手のフリーキック(FK)はBLAST占いでは予測できたか気になるところです。HONDAFKというアミノ酸配列を含んだ遺伝子がないか検索するのです。アミノ酸の1文字記号に、Oはないですから、見た目の似たAspartic acidの1文字記号Dで代用して、HDNDAFKでBLASTサーチをかけてみます。Rhizobium etli のprobable DNA hydrolase protein, MutT/nudix familyの4 -10番に HDNDAFK が見つかります。
本田圭佑選手のファーストネームを入力してみるのもよいでしょう。やはりUをVに代えて KEISVKE で、Acinetobacter radioresistens DNA-binding protein の 136-142番に KEISVKE など出てきます。なんとなく「DNA結合タンパク」というのがサムライの遺伝子を結束したような、なんとも強そうな響きに聞こえませんか? みなさん、それぞれ、ひいきの選手の名前や、ご自分の名前でも試してみてください。
7文字だけでは短すぎますか? 8文字でも試しましょう。日本には勝ってもらいたいので、NIHONWINでは、どうでしょう? こんどの検索語は、Oに代えてGlutamine のQを使って、NIHQNWINで試しましょう。
Campylobacter jejuni の CDP-diacylglycerol--glycerol-3-phosphate 3-phosphatidyltransferase
検索語 1 NIHQNWIN 8
共通配列 NIHQ WIN
結果 28 NIHQSWIN 35
で、惜しくも一文字合わず、判定は、8強入りは、なかなか難関と無理やり解釈するのです。この原稿は、W杯決勝リーグの直前の週末に書いていますので、日本の結果はまだ知りませんが、どのようにでも解釈できるようにしておく。ここが占いの占いたるゆえんで、信じる者のみ救われる。です。あとは、みなさんに自由に遊んでもらいたいのですが、6文字のNIHQNV (日本勝利)や7文字のNIPPQNI (ニッポンイチ)でも、よい結果が出ていたことをお知らせしておきましょう。
この時期、選挙の結果を占いたい人もいたでしょうが、ラッキーセブンと言っても、BLAST占いを7文字以内で行えば、確率的に大丈夫、な訳ではないですよ。7文字のVICTORY で試してみても、完全相同遺伝子は検出されませんでした。近いのは、かろうじて、以下のものなどでした。やはり完璧な勝利は、たやすいものではない。
Bombyx mori のneuropeptide receptor A31 で
検索配列 1 VICTQRY 7
共通配列 VICT+RY
結果 155 VICTERY 161
そうそう、前回の記事で、OTOKOGI 「侠」「男気」という遺伝子の紹介もしましたね。Human rhinovirus C の polyprotein 325-331番 にQTQKQGI という配列があります。このウイルスに感染した場合に、ちょっと男っぽくなった気がした女性(含む草食系男子)はもちろん、分子「擦過」学に毒された錯覚です。それから、これを参考にして、あなたの遺伝子を「勝つ体質に」改変してあげます。などという遺伝子ドーピングビジネスには、くれぐれもひっかからぬように、ご用心。では、また会いましょう。
(西海岸。)
2010年7月掲載
Indexに戻る