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「また、西海岸。の風に吹かれて」 第19回

第19回 分子「信念」学  <2010年1月>

  みなさん、新年おめでとうございます。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。旧年までの、−続々:「西海岸。」の風に吹かれて−を、改称してみました。続々の次をどうするか、ちょっと悩んだんです。昨年亡くなられた、作曲家の團 伊玖磨氏の、「パイプのけむり」という長寿エッセイシリーズにちなんで、「また」を借用しました。ところで、「パイプのけむり」の命名法を確認しようと、團氏のウィキペディアを調べましたら、鳩山総理一族と親戚関係にあるのですね。かたや、パイプ派、かたや、タバコ値上げ派で、それなりにバランスがとれているのもよいかと。私の大学時代の恩師は、愛煙家でしたが、通勤には車を使わず地下鉄でした。いつも、私たち不肖の弟子には、「排気ガスと比べてみなさい。君たちが自動車の運転を止められるなら、俺も禁煙する。」と言われたことを思い出します。かくいう私も嫌煙家ではあっても、CO2排出派としては、大学一の自動車通勤距離なので、昨今肩身を狭くしております。

  さて、分子「**」学のシリーズで続けてきたエッセイですが、今回は、新年にちなみ、分子「信念」学です。「シンネン」のごろあわせをしただけで、宗教や哲学に関わるような深い意味はないのです。新年というと、ふと、中学か高校で習った、「去年今年貫く棒の如きもの(高浜虚子)」という句を思い浮かべます。政権交代のあった去年今年は、大変革が続きますが、その中で何が貫いているのでしょうか? 無理やりバイオにこじつけますと、BIOの棒(BO)の真ん中には愛(I)が貫いていると解釈して、現総理の信念の友愛につなげてみましょうか。

  習慣の「慣」も、「りっしんべんに貫く」と書きますが、ここ10年ほど続けている元旦の習慣に、初詣の代わりに、JR駅の売店まで出かけて、福袋の代わりに新聞全紙をあるだけ買って読み比べてみるというものがあります。お正月だけは特設コーナーに、ヒラ積みで並んでいます。朝日と日経、地方紙は、購読していますので、それ以外の読売、毎日、産経、中日や英字紙などを買います。なぜか読売は毎年売り切れているので、コンビニかスーパーで探します。今年は、ジャパンタイムズも売り切れていましたので、英語学習週刊紙の毎日ウィークリーというのを買ってみました。昨年は、中国語や南米語系の新聞もあった気がするのですが、今年は見当たりません。これも世相の反映でしょうか。定点観測として、これからも続けてみますが、全紙買っても1,000円ちょっとのお賽銭程度の出費で、いわば、目で食べる情報おせちという感覚です。

  本物の食べるほうのおせち料理といっても、我が家は、それほど特別なものはないですが、それでも、年越しそばに始まり、夜更かし、朝寝坊、雑煮、おせちと、いつもとずれた時間帯に、通常と異なる素材の組み合わせで食事をし、ミニ時差ボケ効果も加わり、たいてい、おなかの調子をくずしますので、二日目はミニ絶食で節制します。新聞のほうも、これだけ混ぜて一気に読むと、情報の量、質、それから活字の字体、段組み、おまけに紙の白色度も、それぞれ異なり、視神経と頭脳に与える刺激も普段とは異なるのか、精神安定性が狂い、良い初夢を見ないのを、そのせいにしますが、幸い、翌日は新聞休刊日なので、情報消化も休養日です。

  昨年は、科学技術関係でも、事業仕分けという、激震が走りました。大学で私の関わる小さな事業にも多大な影響が出ていますが、これまでも職場も仕事も何度も変えてきた身としては、「変わる」ということ自体には、それほど、違和感を覚えませんので、むしろ、「廃止」と打ち出された事業が、いくぶん形を変えてでも復活しているさまには、まさに「貫く棒のごとき」したたかさを感じています。主として基礎研究にあてる科学研究費補助金は2000億円というキリの良い数字になりましたが、これも景気さえ良ければ、他から回してでも2010億円と調整したのかもしれません。世間知らずといわれようが、それくらいの余裕がほしいものです。この額をどう評価するかは議論のあるところでしょう。最近の新刊訳書で新薬ひとつに1,000億円!?(朝日新聞出版)というのを拾い読みしました。昔の職場の米人上司が取材対象にあがっていてびっくりでしたが、ともかく新薬ひとつあたりの研究開発費が1,000億円というレベルと比較して、考えさせるものがあります。

  そうやって2010年を迎えました。10年前の2000年の元旦は、2年ばかり住んだヨーロッパから日本への帰国の機上(コンピュータが誤作動して飛行機が落ちるというY2K騒ぎのおかげで貸切状態)にありましたし、20年前には、はじめての米国留学を前にして、それなりには前途の希望を胸にしたり、人生の転機にあったような気がします。今年の年賀状には、民間企業に勤める同級生は早50代半ばから定年を迎える挨拶がちらほらとはいってきました。21世紀の10年何をやってきたのかを振り返ってやや愕然とし、これからの10年は、何をやるべきなのか、静かに考えてみようとする間もなく、1月4日仕事始めの日に、学内の知り合いを挨拶がてら何人か訪ねてみますと、もう講義が始まり、ばたばたと動きだしております。

  私は、薬学会の会員でもあるのですが、学会誌「ファルマシア」の2010年1月号を開いたら、巻頭グラビアに、吉永小百合さんと蒼井 優さんが出てきてびっくりしました。なんでも、山田洋次監督の新作映画おとうとにふたりともに薬局薬剤師役で出ているそうで、コラボ企画のようです。ひさしぶりに映画でも見に行ければと思いつつ、こんな薬局の棚には、増殖の一途をたどる草食系男子のためにとの売り文句で、繊維分解酵素、窒素固定酵素遺伝子二重導入胃酸耐性乳酸菌カプセル(空想創薬科学研究所開発)などというありそうでないものがこっそり並べてあるといいなと思います。ただし、こういう、あやしいクスリの開発には、お国の税金や助成金はけっしてあてにしてはいけません。

 新型インフルエンザはピークを過ぎたのかもしれませんが、家族に受験生をお持ちの皆さんは、特に心配が絶えない日々が続きますね。どうかご自愛ください。今年もよろしくお願いします。

(西海岸。)
2010年1月掲載

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