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「西海岸。の昭和!実験奮闘記」(続西海岸。の風に吹かれて) 第8回

第8回 分子「脳夢」学  <2008年3月>

  みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・。 という書き出しで「西海岸。の風に吹かれて」シリーズを始めてから1年たち、前回からは続編として「昭和!実験奮闘記」に衣替えしたのでした。正編は、分子「姓名」学分子「和独算」学分子「徘徊」学分子「華族」学分子「ポストドッグ」学そして分子「盛花」学の六回、そして続編は、分子「リセット」学に回帰して、さて今回は分子「脳夢」学、これは、「脳の中に濃霧」がたちこめて「脳霧」学というか、それとも自戒をこめて「脳無」学と読みかえたほうがいいか、話はどこに飛んでいくのか、まだわかりません。

  先月、ひさしぶりに出身大学構内に立ち寄る機会がありました。今や浦島太郎状態よろしく、出身講座にはもはや知り合いもいないため、半白髪に混じるブラック部分は、せめて、本原稿にブラックユーモアを醸すためと言い訳して、研究室は覗かずに帰宅したら大学同窓会から会報が届いており、学部近影なる写真を見たら、私が卒業研究以来大学院を通じて昭和50年代の6年間を過ごした実験室のあった建物はすでに改築されてなくなっていました。下宿から歩いて30分、半径5kmでほぼすべてがまかなえた青春の思い出の中心地が今は消えたとなると、無性に昔のことが思い出されるのもまた年のせいでしょう。

  さて、「実験」奮闘記でした。学部4年生の卒業実習で研究室に配属されて、博士課程3.5?年生の先輩から手ほどきを受けた最初の実験が、DNAリガーゼのアッセイ法でした。アッセイ原理は、今やうろ覚えとなっていますが、仔牛胸腺DNAに大腸菌DNAポリメラーゼⅠを用いてニックトランスレーション法でトリチウムで標識しておき、DNAリガーゼ反応後、沸騰水中にてDNAを熱変性させ、一本鎖DNAを特異的に分解するS1ヌクレアーゼで消化し、トリクロロ酢酸不溶画分に残る放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定するというようなものだったと記憶します。何せ30年も昔の話につき「ような」とぼかしていますが、この記事はTOYOBOのサイトに載るので、文責は筆者とはいえ、科学的にあまりに不正確だと会社や担当者の名誉に関わってもいけないので、間違いを見つけたら、担当者宛メールで正解者先着OO名様に限り、粗品進呈というクイズコーナー兼用としておきましょう(なんて勝手に決めてもいいのかな?)。

  そんなに難しい実験ではなかったものの、それなりのアッセイ本数もあり、先輩は、「じゃあ朝までにやっておいてね」と、どこかに消えてしまい、必然的に、朝までベンチに立ち尽くす徹夜もなつかしい思い出。ところで、これらの実験を行うのに使ったDNAポリメラーゼⅠは研究室の2年先輩が、S1ヌクレアーゼは確かタカジアスターゼを材料として1年先輩が精製したものをうやうやしくいただき、液シンのシンチレータカクテルは、トルエンを溶剤として研究室内で当番制で作るなどなんでも自作の時代。当時、別の研究室の学生が、このカクテルをポリバケツを用いてスターラー上で撹拌溶解し、バケツに穴をあけ、引火し、ボヤ騒ぎを起こしたこともありましたっけ。それに比べれば、しょっちゅう壊れる機械式フラクションコレクターを監視するため、何時間も低温室に籠もる程度は序の口。その頃はたぶん使い捨てカイロなどまだなかったと思うし、使った覚えもない、と気になり調べてみたら、ホカ○ンというのが発売30周年というから、いや意外と使ってみたことあったかも記憶に自信なくなったが、ともかく「そんな時代もあったよね♪」。という歌だけは口ずさみながら実験していたかもしれない。今でも思い出すのは、深夜の実験室に流れるラジオからいきなり所ジョージの「じょんじょろりん」という衝撃的な歌が流れてきたとき。なぜか、そのとき、同じ部屋にいた数名の学生みなぶっとんだ。同年代の彼、まさか、今でも活躍しているとは。

  そうこうして1週間も続く徹夜の酵素精製実験の合間の仮眠など、運がよければ教授室に忍び込みソファで寝ていたが、たいていは、ろくに換気扇もないような液シン測定室に寝袋と簡易ベッドを持ち込んで酸素呼吸しているのかシ○ナー呼吸しているのか定かではなかったようなものだから、当時、in vivoイメージング手法が開発されていたら、灰色の脳細胞が虹色の蛍光を発しているのが容易に検出されたことでしょう。「学」は「無」くとも、シンチレータ溶剤の血中濃度は、「脳」全体に浸み渡るまで上昇し頭を柔らかくして発想豊かな白昼「夢」ならぬ「無」睡眠時間を24/7(Twenty four hours/seven days)続ければ「夢」かうつつを絵「ガク」研究にはささやかな貢献をしていた(かも)。と、いう訳で、今回は分子「脳夢」学でしたと終わるのは、こじつけが苦しい。ともかく、今や大学も独立法人化してからは、健康障害防止のために、バイオの研究室であっても、特にドラフトの設置義務など厳しくなっているので、もう、こういうことも起こらない(はず)と一応確認だけはしておきます。

  と、ここまで書いてきて、「S1ヌクレアーゼ」と「タカジアスターゼ」の関係を確認しようと、両キーワードでグーグルしたら、この報告書が冒頭に出ました。忘れていました。S1ヌクレアーゼもタカジアスターゼも発見者は日本人とちゃんと書いておいてねと、何か、呼ばれたような気がします、そのサイト名からしてまさにミステリアスとか。

  ところで、もう一度、元にもどって、分子「脳夢」学。 ノームと読めば、英語で言えばGnomeというつづりで、なんとなくGenomeに似てるわというところで、もしかして、職場で間違って読んでしまった方には、この最後の3行だけでも、ゲノムの勉強していましたと、アリバイ用にお使いあれ。では、また機会があればお会いしましょう。

(西海岸。)
2008年3月掲載

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