コーヒーブレイク
「西海岸。の風に吹かれて」 第4回
第4回 分子「華族」学物語 <2007年7月>
みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。現在、西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・ このシリーズの第1回では分子「姓名」学、第2回では分子「和独算」学、第3回では分子「徘徊」学をとりあげました。今回は、「本場西海岸」のカリフォルニアから伝説の生化学者Stanford大学名誉教授Arthur Kornberg家族来日の報に接しましたので、その華麗なる生化学者一族の話題を分子「華族」学としてご紹介します。
前回、「西海岸。」のノーベル賞受賞者直筆サイン本コレクションの話をしました。1989年9月1日のことです。Stanford大学の彼の研究室で直々に会えたノーベル生理学医学賞(1959年)受賞者Arthur Kornberg先生は、私が持参した出版されたばかりの彼の著書 ’For the Love of Enzymes’ に次のようにサインしてくれました。With best wishes to someone who shares an interest on DNA & Enzymes. 一介の名もなき私でしたが、大学院時代に真核生物のDNA複製酵素の研究をしていて、彼の著書 ’DNA Synthesis’ (1974)を輪読していたことを話したためです。サインしてもらったのは、ハードカバー本でしたが、今は、ペーパーバックや、元東大医科学研究所所長で、Kornberg先生の愛弟子でもある新井賢一先生による訳書「それは失敗からはじまった」(羊土社1991)もあります。私は原題の「酵素に愛をこめて」のほうが好みですし、このサイン本は一生の宝物で愛読書です。 この ’For the Love of Enzymes’ という言葉は、彼が1976年に編集した’Reflections on Biochemistry’という著書の中に初めて現れており、当時学部4年生だった私は、その言葉に心酔して、その後の6年間を酵素精製に終始した思い出があります。
Kornberg先生は、1918年3月3日生まれですから、現在89歳。今も現役で研究を続けておられるというから驚きですが、DNA Synthesisの執筆時は50台半ばでしたが、午前2時から6時をもっとも生産的で楽しい時間として使っていたというのですから、タフそのものと言えます。初来日が1957年だそうですから、今回の来日(7月23日に東京大学安田講堂で開かれるコーンバーグファミリーシンポジウム)が50年記念となります。昨年、親子2代でのノーベル賞受賞と話題になった、長男Roger Kornberg教授ならびに次男のTom Kornberg UCSF教授も同時に来日し講演するというまさに豪華版の講演会となります。父親のArthurは、飛び級を繰り返し、19歳で大学を卒業し、34歳でワシントン大学の医学部教授になっていますし、Rogerは生化学の帝王教育を受け、高校生時代にすでに、ポスドクにDNAポリメラーゼの精製法を教えたとか、Tomは研究の経験がなかったのに、新しいDNAポリメラーゼをたった三週間で見つけ、三ヵ月後には国際生化学会で発表したとか英才的で華麗なるエピソードには事欠かない親子です。イマドキの東大生がどれだけ興味を持たれるのかは知りませんが、私自身は聴衆が殺到して入れない事を恐れ、ここでご紹介をすることを躊躇しようかとも思いましたが、ご高齢であることを考えると二度とない機会でしょう。何はともあれ、私も「西海岸。」から夜行に乗ってでも早めに上京し会場に並び、講演を拝聴する予定です。このメルマガ読者の皆さんとも席を隣合わせるかもしれません。
私の書棚には、他にも’DNA Replication ’ や ‘The Golden Helix’ ,(訳書:輝く二重らせん−バイオテクベンチャーの誕生:メディカル・サイエンス・インターナショナル社1997年)など、Arthur Kornberg先生の著書が並んでいます。The Golden Helixには、Inside Biotech Venturesの副題がついており、この連載の第一回の分子「姓名」学物語で紹介した不思議な?論文の生まれたDNAX研究所の誕生秘話などが満載です。この機会に再読味読したいと思います。訳書など在庫切れのものもあるようですが、皆さんも図書館で探すなり、出版社に再刊や文庫本出版を働きかけるなどして、ぜひ手にとって見られることをお勧めします。「本物の西海岸」の息吹が感じられることでしょう。また、DNAX研究所は、現在、名称も運営形態も変わってしまいましたが、その素晴らしさを示す1990年代初期の回想が当時滞在していた私もよく知る日本人研究者により書かれていますので、一部紹介しておきましょう。(http://www.biomol.med.saga-u.ac.jp/medbiochem/labodiary2.html)
では、また次回。
(西海岸。)
2007年7月掲載
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