コーヒーブレイク
「西海岸。の風に吹かれて」 第2回
第2回 分子「和独算」学、17−11=0? <2007年3月>
みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。現在、西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・ このシリーズの第1回では分子「姓名」学をとりあげましたが、いかがでしたでしょうか? 今回は、分子「和独算」学を紹介してみましょう。「和算」でもなく「数独」でもなく、そして「17−11=0?」という算術は、どこかのテレビのクイズバラエティ番組の謎解きみたいですが、そこは読者層を考慮して、分子生物学にも関係のあるお話です。しばらくお付き合いを願います。
前回は17年前の論文著者と遺伝子にまつわる話題でしたが、今回は、17という数字に由来する遺伝子です。がん遺伝子の勉強をされたかたならまずほとんどの人が知っているjun遺伝子。このがん遺伝子の命名が、日本語の十七(じゅうなな:ju-nana)に由来することを講義で聞いたり、教科書で読んだりしているかもしれません。最初に報告されたPNAS誌の論文(Yoshio Maki et.al; Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,2848-2852, 1987)のRESULTS欄に、Avian sarcoma virus 17のオンコジーンを日本語読みの短縮系として命名したと明記されています。ファーストオーサーが日本人だからこそ思いついたのでしょうが、もしかして奥様か、娘さん、はたまた思い出の人が純さんあるいは順さんあるいはジュンさんという名前だったのかも・・・と勝手に想像してしまうのは私だけでしょうか。
さて、余談はともかく17−11=0? の謎は。日本語を知らない外国人に、この命名は、どこまで受けたのでしょうか。ごく最近偶然に、あるドイツの大学での分子ウイルス学腫瘍学の講義スライドを目にする機会がありました。2006年12月13日の講義が拝見できます。(※現在は見ることができません。)46枚目のスライドをご覧いただければと思います。いつもセットで語られる機会の多いfosと並べて、junの名の由来が書かれています。ドイツ語ですが、そんなに難しい術語ではないのでそのまま引用します。jun: aus Vogelsarkomvirus 11 (11 = japanisch junana) 英訳すれば、jun: from Avian sarcoma virus 11 (11 = Japanese junana) となりますね。日本語由来と解説してくれたところまではよかったのですが、ここで11と書いたのは、私の引用ミスではなく、原文のままです。日本人なら犯しようのないミスですが、まあご愛嬌でしょう。和算では17だったものが独(逸)算では11になって差し引き0?の等価になってしまったというのが、種明かしです。私もしばらくドイツに住んでいたこともあるので、思い当たりますが、ドイツ人の手書きの1は日本人が見ると7に間違えやすいので、これが、もしチョークで板書の講義だったら間違いかどうか私のような暇な物好きに発見されずうやむやになってしまったかもしれません。
こういう現象を「研究?」することを,私は分子「和独算」学と名づけてみたのです。前回に引続き、やはりトンデモ学問のようでなく、そのもので,気がひけますが,ご紹介してみました。17年前と言えば、私が生まれたばかりの三男とともに一家でアメリカ西海岸で研究生活を送るために渡米した年で、その息子も無事17歳の誕生日を迎えました。なんとなく気になる数字になってしまいました。その他、最近見かけた面白い日本語由来の遺伝子名には東大のN助教授が好きな任侠(にんきょう)映画にちなんだ命名の「OTOKOGI」「侠」 がありますね。他にもユニークな日本語由来の遺伝子名についての話題などありましたら、コメントなどとともに本コーナーへの感想もお待ちしています。
(西海岸。)
2007年3月掲載
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