コーヒーブレイク

「アメリカ東海岸留学日記」 第35回


 

> 2013年 4月 23日 「ボストンマラソン爆破事件」

   4月15日月曜日午後2時、やっと春を迎えたボストンで、衝撃的な爆破事件が起こりました。国際的なイベントであるボストンマラソンのゴールラインでの出来事です。事件後犯人2人は逃亡、木曜夜にケンブリッジにあるMITキャンパスでFBIが銃撃戦の末、犯人の一人を射殺しました。その際に、キャンパス警察官1人が死亡、1人が重傷、という惨劇となりました。犯人のもう一人は金曜日にかけてケンブリッジから西にあるウォータータウンに逃亡、潜伏しました。そのため金曜日一杯、ボストンおよびその郊外の街一帯に、全員自宅待機、全公共交通機関停止という非常事態宣言が下されました。在ボストン日本領事館からは、在米日本人に向けて事件の経過と外出禁止の旨を知らせる緊急連絡メールが何度も配信されました。金曜夜にはついに2人目の犯人が捕まり、街の厳戒令が解かれるとともに、土曜日からの交通機関の復旧が通知されました。犯人が潜伏していたウォータータウンでは、逮捕が完了すると警察官と住民両方から歓喜の声が上がったそうです。
 

   マラソン大国アメリカでは数々のマラソンレースがあり、レースの種類によってレベルも分けられています。ボストンマラソンは、その中でもレベルの高い、国際的に有名なレースの一つです。参加ランナーは皆、この日の為に練習を重ねて準備をして来た人々ばかりです。そしてランナーを応援する家族や友達も沿道に集います。みなが一体となって盛り上がる年一度の大きなレクリエーショナル•イベントです。

   またボストンという街は、多くの国際的な教育•研究機関がありますが、アメリカの政治や経済を象徴するような政府•商業機関はありません。街の人口の多くは教育機関関係者で成り立っており、 アメリカ人だけでなく様々な国籍の学生や研究者が日々アカデミックな生活に勤しんでいる場所です。そのため、アメリカの中でもテロには縁遠く、最も安全な場所の一つだと信じられてきました。私自身渡米して6年、まだ一度も銃を見たことがありませんでしたし、FBIの出動も目の当たりにしたことがありませんでした。FBIや銃撃戦は、大都市や中西部、あとはハリウッド映画の中だけだと思っていました。実際に、これまでは夜中に独りで歩いて帰る学生もよく見かけたくらいで、東京と遜色のないくらい安全な街だという認識がありました。しかし今回、平和と家族を象徴するようなイベントでこのようなテロ爆発が起こり、それに続く銃撃戦が大学のキャンパスで起こってしまったことは衝撃的でした。MITに勤務する友人の中には、木曜夜の銃撃戦が起こった場所の目の前で勤務している人もいます。友人もさすがに、あと一時間帰宅が遅れていたら銃撃戦に巻き込まれていた、今回ばかりは本当に危ないと思った、とショックを受けていました。
 

   2001年9月11日のニューヨークにおけるテロ以来、FBIのテロ対策はかなり徹底しているようです。今回の捜索でも早い時点で犯人2人の顔写真が一般公開され、街全体が閉鎖、公共交通機関は全て停止、住民は全員自宅待機など、街全体に大規模な協力を要請した戦略が瞬く間に決定•展開されました。これらの処置が早期逮捕に結びついたようです。ただ2001年のテロとは少し様子が異なり、 実行犯はボストン在住歴10年以上の19歳と26歳の少年でした。ロシア在住の彼らの父親やアメリカ在住の叔父など、家族へのインタビューも行われましたが、家族も大変なショックを受けているようでした。特に19歳の少年は地元の大学に通う学生であり、アメリカ国民の一人でもありました。現在のクラスメイトや高校時代の教師へのインタビューでも、彼がこの事件を起こしたことが信じられないとみな口を揃えて言います。同じ国民の一人が今回の事件を起こした理由に注目が集まっており、オバマ大統領も理由が知りたいと言及しました。これから、テロ組織との関係も含めて調査が進むことになるでしょう。

   今回のことで、実はアメリカではテロがかなりの頻度で全国的に起こっていることが新ためて明るみに出ました。 ただ多くの場合は、FBIや地元警察の努力によりテロは不発に終わり、大きく報道もされずにいたのだそうです。今回はFBIを出し抜いて犯人は爆破に成功しましたが、そのあとの徹底的な追求ぶりを見ると、アメリカの危機管理能力の高さが伺えます。テロの多い国に住んでいることはもちろん良いことではありません。でも政府と警察組織の犯罪者に対する徹底的な姿勢を見ると、犯人は必ず捕まるだろう、それまでは耐えようと思うことができます。 
 

   日本の震災以来、アメリカ人には災害が心配で日本に住むのは不安があると言われます。確かにアメリカは日本に比べれば大きな自然災害が少ない国です。でも反対にアメリカでは人が策謀するテロが心配です。日本もアメリカも、どちらの国も理想的に安全な国ではないかもしれません。でも原因が災害でもテロでも、非常事態に迷い無く断固とした姿勢をとれる政府と、徹底的に訓練を受けた警察組織のあることは、どれだけ国民の心を救うかわかりません。多国籍・他民族からなるアメリカですが、国民の政府と警察組織に対する信頼はかなり高いと言えます。またそういった政府やFBIの活動を見せられることで、国民自体の危機意識も高くなっていくのかもしれません。

   危険の無い国に住むのがもちろん一番理想的です。でも現在の社会情勢を見ると、世の中にそのような国や世界は無いのかもしれないと思うことがあります。今回のことでさらに、危機管理能力の高い政府を持つことが安全な国造りに最も重要なのではないかと感じてしまいました。もちろん常に危険に曝されている状態が良いとは思いませんし、アメリカという国が良いか悪いかも別の問題です。でも誰もが不安なこの時代、リーダーシップを国民に分かりやすく見せることは、国民の愛国心を勝ち取るための早道にもなるのではと思いました。  
 

(コンドン)
2013年5月掲載

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