コーヒーブレイク
「アメリカ東海岸留学日記」 第17回
> 2009年 12月 28日 「学会」
みなさま、年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか。私は12月にアメリカ西海岸のサンディエゴで開かれたAmerican Society of Cell Biology Meetingという学会に行って参りました。Cell Biologyという名前ですが、日本でいうところの分子生物学会のような学会で、あらゆる生物学関連のトピックをカバーするアメリカで最も大きい学会の一つです。場所は、Convention Centreという建物全てがイベント用に設置された場所で行われました。その周りにはHyattやHiltonなどの高級ビジネスホテルが並び、学会参加者はそれらのホテルに宿泊し、毎朝晩、徒歩でホテルと会場を行き来することができます。
私は今回Hiltonに泊まることにしたのですが、アメリカのホテルで不便だと思うのは、独りで安く泊まれるビジネスホテルがないことです。アメリカのホテルは通常、部屋ごとのチャージになります。ボストンやニューヨークでは一泊300〜500ドルは当たり前です。この金額はシングルでもダブルでも、トリプルでもあまり変わりません。そのため、2〜3人で泊まるならば100ドル程度ですみ、日本のホテルと同じような金額ですが、一人旅には甚だ不向きです。今回の学会でも会場周辺のホテルは全て一泊200ドル以上でした。私のラボからは、今回は私しか参加しないことになりました。そのためボスは私一人のために、200ドルの部屋を5日間分支払うことになります。その他に学会参加費やフライト代、タクシー代、食事代まで、研究費から捻出することになります。ボスにとっては、学生やポスドク一人を一つの学会に参加させるだけでも、2000ドル近くの支出になります。教授が一人で研究費を切り盛りするような小さなラボでは、これは中々の支出です。
今回、やはりホテル代は無駄に高いということで、部屋をシェアしてくれるルームメイトを探すことになりました。学会のウェブサイトに、私と同じように学会に独りで参加する人々を紹介するページがあります。そのサイトで、気の合いそうな人何人かに連絡をとり、結局、シカゴの薬学系の大学院生と部屋をシェアすることになりました。学会発表準備よりむしろ、ルームメイト探しで苦労することになってしまいました。変な話ですが、歳をとるにつれ、見知らぬ人と部屋をシェアするのに少々抵抗がでてくるのは、私だけでしょうか?5日間で500ドルの倹約になると言われればルームシェアも仕方がありませんが、もう少し質素なホテルでも一人部屋があればいいのに…、とアメリカのホテル事情に心の中で思わず文句を言ってしまいました。
大きな学会は時間もお金もエネルギーも使いますが、普段は交流することのない他の分野の研究者や企業関係者と出会う機会が持てるのは、良い点です。特に企業 (vender)の展示ブースは、教授を含めた研究者にとってもチェックの欠かせない場所です。テクノロジーによって研究結果が支配される昨今の研究事情では、より新しいテクノロジーをより早く制したものが勝つといっても過言ではありません。私もボスから、積極的にチェックしてくるようにとお達しを受けてしまったほどです。企業の展示ブースはポスター会場の真ん中に設けられており、会場の実に半分以上のスペースを占めています。出店企業は製品開発系企業から、出版社まで様々です。大手企業は中心に派手なブースを設けていますし、各社工夫を凝らしたサンプルや会社のロゴの入った商品の無料配布を行っていました。
また夕方には、会場周辺のホテルでvender showも開かれます。私も、Invitrogen主催のショーが自分の宿泊するホテルで開かれたので、一度だけ参加してみることにしました。このショーは新作のフローサイトメトリー(細胞選別を行う機械)を紹介するショーでした。私の場合は本音を言えば、無料の食事と飲み物が目当てだったのですが、ショーはなかなか工夫をこらしたものでした。ショーの前後には、立食形式ですがホテル提供の美味しい食事と飲み物が振る舞われました。生のバンド演奏や照明も揃え、高級なバーを連想させる演出となっていました。また、専属のテレビカメラやレポーターまで用意していました。おそらく後々、社内の報告やCMにこの映像を使用するのでしょう。ショー自体は小さなステージを設けた上で代表者が製品のデモンストレーションを行うというものでした。
私は前述の通り不純な動機でこのベンダーショーに参加したわけですが、私以外の参加者のほとんどは企業関係者で、みなさん同業者や協力関係にある企業の新製品のチェックや外交交渉に励んでいるようでした。また学位取得後に企業に就職を希望する学生も多く参加していました。企業の研究•開発者と直接交流を持つ良い機会というわけなのでしょう。アメリカでは企業の研究職につくには原則、Ph.D.がなくてはなりません。そのため、企業の研究職を目指してPh.D.コースに入る人も少なくありません。大きな学会は学生にとって、自分の研究をアピールするだけではなく、大切な就職活動の場でもあるようです。そのような雰囲気の中では、私は少々浮いた存在ではありましたが、企業の方々とのディスカッションは新鮮でした。特に、普段は中々調べる時間もなく何となく使っていた機械の仕組みや、新製品の特徴、企業研究者の生活、経済状況などについて、お酒を交えながら気軽に話を聞く事ができ、学ぶことが多くありました。
学会は朝7:30から始まり夜8時くらいまで発表が続き、マジメに出ればかなりの過密スケジュールになります。もちろん、分野が多岐に渡るので全ての発表に出る必要はありません。私も要旨集をざっと見て、見に行きたい講演やポスターにだけ赴きました。また大きな学会なので、今は違う分野にいる同窓や遠方に住む共同研究者と顔を会わせる良い機会でもあります。会場外のテーブルではディスカッションを行う研究者のグループでいつも溢れている状態でした。私も、アメリカ国内で散り散りになっている研究友達と再会を果たす事ができました。また、直接の知り合いはいませんでしたが、日本からの参加者も多くみられました。学会参加者の3割以上がアメリカ国外からの参加だったそうです。英語や日本語以外にも様々な国の言葉が飛び交っていました。国内学会でも国際的な交流がもてるのは、さすがアメリカの学会というところなのかもしれません。
(コンドン)
2010年1月掲載
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