コーヒーブレイク

「アメリカ東海岸留学日記」 第15回



 

> 2009年 8月 31日  「日本人の会」 

   こちらは暑い日差しの中にも秋の匂いを感じるようになってきました。短い夏が終わってしまってしまうのが、寂しく感じられる今日この頃です。私はこの夏から、ハーバードメディカルスクールに所属する日本人研究者の方々の勉強会に参加させていただくことになりました。

  私は、海外で培う日本人研究者のネットワークはなかなか重要だと思います。国内にいたら絶対に出会わないような異なる分野の方々や、年齢や立場も大きく異なる方々とも、海外でならば日本人という共通点で割と簡単に仲良くなることができます。また日本人同士ならば、将来的に日米どちらで研究を続けることになっても、世界のどこかで再度出会える可能性が大きいと思います。実際、この勉強会を通して知り合った方と、私の友人が学部時代の同級生ということが最近発覚し、世界は本当に狭い、とみなで驚きました。
 

   また、幅広いネットワークは、将来的に共同研究へと発展する可能性も秘めています。若い時代に十分な研究者ネットワークを構築しておくことは、独立した後に自分を助けることになると私は思います。しかし残念ながら、私の勤める大学にはほとんど日本人がいません。そのため、アメリカに来て2年半になりますが、実は、未だに日本人の知り合いがほとんどいない状態です。そこで、今回は一念発起し、他の研究機関ではありますが、大手(?)のハーバードのみなさんの集まりに参加させていただくことになりました。

  ハーバードメディカルスクールは、ハーバードの中でも、大御所のラボが多く集まります。所属するデパートメントにもよりますが、PIは一般的には授業を持たず、スクールといってもほとんど研究機関と言えるようです。アメリカでは最も名の知られた研究機関の一つですので、研究者の国籍もバラエティーに富んでいます。中には、ボスも含めて、アメリカ人が一人もいない、というラボも珍しくありません。ウワサでは、日本人だけでも数百人はいるそうです。アメリカのハーバードといっても、実際には様々な国の研究者によってその名声を保っていると言えます。しかし逆に言えば、様々な国の優秀な研究者を引きつける、すばらしいシステムとサービスを提供しているということでもあるのでしょう。
 

   日本人会は、月一度、メディカルスクールのビルの一室を借りて行われます。毎回、予め発表者が一人選ばれ、発表者は研究分野の紹介から始めて、自分の研究内容について2−3時間に渡り発表します。ライフサイエンスの様々な分野の人々の集まりなので、前半の自分の分野の紹介だけでも、1時間以上を割くことも稀ではありません。学会やセミナーでは、これほど丁寧にバックグラウンドについて説明されることはないので、ほとんど授業を聴くような感じで、大変勉強になります。しかも、違う分野の話を日本語で聞く事ができるのは非常にありがたいことです。

  セミナーの前後には食事とお酒も用意され、人々が歓談できる時間があります。普段、日本語を話す機会のあまりない状況にいる私にとっては、なかなか貴重な日本語タイムです。言語は使わないと忘れるといいますが、それは母国語でもしかり、です。特にサイエンス用語など、成人してから覚えた単語群は、たった2年でも、忘れるのには十分です。帰国時に日本語でセミナーを行ったことがありますが、なかなか苦しく、最終的には英語と日本語のミックスというどうしようもない状態になってしまった経験もあります。といっても、文法や日常会話はもちろん日本語の方がまだまだ勝ります。つまり、日本語も英語も中途半端な状態ということで、まずい状況です。本当のバイリンガルとは、相当な努力が必要なのだと痛感する思いです。
 

   さて、勉強会の話に戻りますが、会の構成メンバーがメディカルスクールの方々ということもあり、メンバーの半分くらいはMD•PhDの方々で、多くの方が日本でポジションを保持したまま、1−2年間の予定で留学にいらしているようです。私を含め、理学系出身のタダのPhDの場合は、海外に出てしまうと帰る保証は通常ありません。反対にMD•PhDの方々は医局との結びつきが強く、どこにでも自由に飛んで行くとは中々いかないようです。研究者と一口に言っても全く違ったライフスタイルで面白いと思います。ただ、ライフスタイルは異なっても、研究に対する情熱や興味は共通するものがあります。留学中で色々な雑務から解放されている状態だからこそ、理学、医学の別なく、ざっくばらんにサイエンスに関する会話ができるのかもしれません。

  会のメンバーにはアメリカで独立してラボを持っている方々もいますが、大多数はポスドクです。もちろんこの勉強会は、ラボの仕事とは独立した自主的な活動になります。他の国の人の集まりで、このような勉強会が開かれているのかはきちんと調べたことはありませんが、日本人研究者の熱心さには改めて感心するものがあります。
 

(コンドン)
2009年9月掲載

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