コーヒーブレイク

「アメリカ東海岸留学日記」 第13回


 

> 2009年 4月 29日  「授業」

 新年度が始まりましたね。アメリカでは大学も3学期制をとるところが多く、4月末は1月から始まった春学期が終了する月です。5月には卒業式となるので、春はやはりアメリカでも特別な季節となります。

  私は、この春学期に初めてこちらの大学で授業を受けてみました。ポスドクやテクニシャンなど、スタッフは無料で聴講することができます。実は単位の取得も無料でできるのですが、単位を無事とれば無料、落とせば有料になってしまうそうです。私立の大学なので、うっかり有料になると一つの授業で何十万と払うことになります。私の今回の目的は、英語の勉強と将来的な講義の参考にするためだったので、今回は安全な聴講生になることとしました。

  選択した授業は、講義の上手いと評判のある教授の授業で、内容は分子遺伝学( molecular genetics)です。講義形式のきちんとした授業を受けるのは5年以上ぶりだったので新鮮です。この授業は大学院生向けで、生物学の基礎知識のあることが講義を受ける前提条件となっています。私はそのため、少人数のクラスを予測していました。指定された講義室も小さなレクチャールームです。しかし、講義初日にクラスに行ってみると、40人ほどの学生が集まってきました。最初の2、3回はshopping periodと呼ばれ、正式な受講申請をする前に、お試しで受講することができるのだそうです。この期間中に、学生はいくつかの講義を受けてみて、本当に受けたい授業だけを選びます。そのため、この期間中は受講生の数も30〜40人と膨れ上がりましたが、最終的には20人程度に収まりました。
 

   しかし、それでも予想以上に大人数で部屋に入りきらないということで、結局大きなレクチャールームに移動することになりました。大学院生は全学年合わせても30人ほどしかいません。また3年生以上の院生は通常授業をとりません。実際、あとで数えてみると、参加している院生は2人だけでした。つまり、この40人の人々のほとんどは学部生だったのです。どうやら、数年前にやる気のある一部の学部生の参加を特例で認めたことが始まりのようです。それがすっかり常例化し、今やどの大学院生向けの授業も学部生で埋まっているとか。少人数生を期待していた院生にとっては甚だ迷惑な話です。でも学部生にとっては、ハイレベルの授業に参加することがチャレンジとなり楽しいようです。アメリカの大学生は勉強熱心だというウワサは本当のようですね。

  私が選択した授業は、教授の講義が上手く勉強になるものの、単位をとるのは決して楽ではありません。まず授業を受ける前に、教授に直接面会しに行かねばなりません。そこで、その学生が前提条件を満たす知識があるのかチェックを受けるとともに、講義の内容や課題の説明が簡単にあります。その他、細かい講義の情報はオンラインで見ることができます。シラバスによると、授業は週2回、80分間です。講義の予定表、演目、課題についても細かく書かれています。最後には、成績の評価基準がポイント制で書かれています。それによれば、中間テスト(Mid Term)が100ポイント、最終テスト(Final)が150ポイント、研究計画書(Research Proposal)が150ポイント、その他にクイズが毎回5ポイントとなっています。そして450ポイント以上獲得するとA、300〜450ポイントだとB、それ以下だとCになるとの基準が示してあります。成績の付け方は大変公明正大です。学生は何をどれだけ頑張れば良いのかが分かります。私が通っていたころの日本の大学にはこのようなシステムはありませんでした。学生のモチベーションをあげるためにも、これはなかなか良いシステムなのではないかと思います。
 

   さて、私の選択した授業では、授業ごとに読む論文が最低2本きまっています。学生はそれらを事前に読んできて、授業でそれについてディスカッションしたり、教授が内容を補足したりします。そして、それらの論文に関する小テスト(Quiz)が授業の前に毎回5分間程度あります。また授業は全部で24回ありますが、その半ばで中間テストとして、また最終日にファイナルテストとして、講義の内容に関する80分間の筆記テストが行われます。私は聴講生なので受ける必要はないのですが、経験として一応受けてみました。選択問題などはなく、すべて文章をかかせるような形式で、80分間ですべてを書き終えるのはなかなか大変です。その他に、学期末までに提出する研究計画書があります。これは、molecular geneticsを使った研究計画を5ページほどで作成するというものでした。実際のグラントプロポーザルやフェローシップ申請を真似したものだと言えます。将来的にこのような書類を書いていかねばならない大学院生には良い練習になるというわけでしょう。
 

  さて、この授業には、教授を助けるティーチングアシスタント(TA)が一人ついていました。私の勤める大学では、大学院の2年生は全員1回以上、TAを行う必要があります。TAは学生の提出したQuizの採点をしたり、講義の資料をコピー•配布したり、学生の授業の質問に答えたりします。また人によっては、教授の講義の一部を担当することもあります。授業が週2回ということもあり、TA中の院生は、ラボで過ごす時間が大幅に削られることになってしまいます。

  さらに教授とTAの仕事には、毎週一度Office hourというものがあります。週一度、決まった時間を学生達からの質問タイムとして設けるのです。学生が確実に質問できる機会を与える、という配慮のようです。この1−2時間の間、教授とTAは来るかもしれない学生のために、それぞれオフィスに待機していなければなりません。人気のある教授の授業になると、学生達がおしかけて、office hourの間はいつも教授室の前に長蛇の列ができることになります。教授にとっても自分の講義が学生に理解されているのかをチェックする良い機会となります。

  このように、単位を取得しようとする学生にとっても楽ではありませんが、提出されたクイズや、テスト、レポートをすべて見て、オフィスアワーにも一人一人の学生の相手をしなければならない教授とTAの仕事も半端な量ではありません。クイズやレポートの回答も、一人一人に対して回答やコメントをつけて返却します。20人分となると簡単なことではありません。教授がクラスで、もう少し返却まで待ってくれ、と延期を学生にお願いする場面もありました。興味深い光景です。教授の方もいっぱいいっぱいということでしょう。学生も教授もお互いに、セメスター中は授業のためだけにほとんどの時間を割くこととなります。

  アメリカの大学は一般的に厳しいと聞いていましたが、日本と比べると確かにそのように思います。しかし、学生達には熱心に学ぶ姿勢があり、教授にもより良い授業をという意識が常にあります。学びの場としては理想的な形に近いのかもしれません。ただし、年間500万円もの授業料と生活費を払う親にしてみれば、それくらいしてもらわねば、というところなのかもしれませんね。
 

(コンドン)
2009年5月掲載

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