コーヒーブレイク
「アメリカ東海岸留学日記」 第4回
> 2007年 10月 30日 「グラント申請シーズン到来」
こんにちは、コンドンです。日本も秋から冬へと切り替わるころでしょうか。
私の住む地域では10月後半から早くも秋は終わりに近づき、朝晩は冷え込む
ようになります。しかし、木々の紅葉は日本と同様すばらしく、清々しい空気の
中で、美しい家々を背景にする散歩は格別です。特に、10月末であればハロ
ウィン用に美しく(恐ろしく?)着飾った家々を見物しながら歩くことができます
(写真参照)。
さて外は素敵な季節ではありますが、研究の世界では、10月〜11月は一連
の大きなグラント、フェローシップの申請締め切りが続き、研究者にとっては
机にかじりつく季節となります。私もボスに頼まれ&トレーニングを兼ねていく
つかポスドク用のフェローシップやグラントに応募してみることになりました。
アメリカの大きな研究資金原としてはNIHとNSFがあげられます。ほとんどのPI (Principal Investigator:正確には研究プロジェクトのヘッドの意味だが、通常助手以上のprofessor職を指す)は、まず間違いなくこの二つに応募すると言えます。またポスドク用のフェローシップもNIHは受託率50%という高確率のため、新人ポスドクの多くはNIHに応募することが多いようです。
しかし、外国人である私の場合はそうは行きません。国の機関であるNIH
やNSFに応募するためにはグリーンカード(永住権)保持者かそれ以上のス
テータスが必要であることが発覚。そこでボスと相談して、私立の財団が募集
するファンドに応募することになりました。ここはさすがにアメリカで、私立の財
団にも関わらず、2−3年間を年俸$50,000〜$60,000の給与でカバーする基礎研
究向けのフェローシップがいくつもあります。ただ、多くが医学系の研究を募集
しているファンドではあります。また年齢制限や経験年数を問わないことが多
いので、より経験と業績のあるポスドクも応募できることから、NIHなどに比べ
競争率が高いのが通常です。私は医学系の研究をしているわけでもないので
すが、そこはプロポーザルの書きようということで、ボスに勧められるままにとり
あえず書けるだけ書くことになりました。
こちらは一人で5個も6個も応募するのが当たり前、という世界です。でも、最初の産みの苦しみをすぎれば、あとは使い回すことができるので、一番大変なのはやはり最初のプロポーザルとなります。日本語でも文章を書くのが苦手な私は、英語ということでさらに四苦八苦する日々でしたが、ボスの助けを借りて(最終的にはほとんどボスの英語)、なんとかドラフトを最初のグラントの締め切り前日に完成させることできました。最近はどのファンドもオンラインでの投稿が可能なので、ぎりぎりまで修正が可能です。
しかし、ここでさらなる問題が浮上します。実は、すべてのグラント申請は大学のグラントオフィスの認可を得なければならず、本投稿をする前にそこへ出向いて、最終原稿を提出しなければなりません。グラントオフィスの人々はプロポーザルに不備がないかなどをチェックし、すべてOKならば研究者は投稿できるというシステムです。日本にも似たようなシステムがあるかと思います。つまり彼らは研究者をサポートする立場にいるわけですが、そこは事務方の世界で、順序と形式を非常に重んじるカルチャーがあります。一方、研究者はプロポーザルの考案でいっぱいいっぱいなので、書類仕事になるべく時間を割きたくありません。当然、事務方と研究者側で理解し合えない狭間ができあがります。申請締め切りが迫ってカリカリしているところに、学内向け書類の誤字を指摘されることや、ファンドが求めていない予算案を学内事務のためだけに作らされることもしばしば。こうして、研究者対事務方(グラントオフィス)という対立関係のようなものができあがり、締め切りまで文字通り戦いの日々となりました。
アメリカは、日本に比べると色々なものが適当な国だという印象が
ありますが、グラント申請については日本の事務を思い出してしまいます。
いえ、日本の方がより効率的かもしれませんが…。8月〜10月を書類作成に
費やし、精魂使い果たした私でしたが、ボスがさらに、ボスとのCo-PI(共同PI)
ならばグリーンカードがなくても応募できると親切にも知らせてくれ、今度は
NIHとNSFにも応募しないかという話となりました。日本の科研費申請と異なり
NIHやNSFの募集は年に3、4回行われます。つまり、いつでも応募できる訳で
す。どうやら、私はしばらくデスクワークから逃れることができない運命となり
そうです。
こちらではグラントの採否がラボの命運を左右するのはもちろん、ボスおよび
申請者(Co-PI=私)自身の給与増減にも響いてきます(研究費の10−15%をPI
自身の給料とすることが多い)。アメリカのPIはとにかく一生申請書をバリバリ書き続けなければなりません。今回の申請で少し食傷気味な私は、「いずれは慣れるに違いない」と自分を励ましつつ、将来これでやっていけるのだろうか少し不安になるのでした。
(コンドン)
2007年11月掲載
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