「昼休みのベンチII」 第1回

『野外へ出よう!』(第1回)  <2008年4月>

  現代人の毎日の生活を顧みると、終日、ほとんど、人工物に囲まれて過しています。自然に近いと思われる食にしても、刺身や生野菜以外は、調理済みで、原形さえ分からない。刺身や生野菜にしても、実は、養殖やハウス栽培で、たっぷり人手がかかり、自然とは言い難いかもしれません。何も人工物が悪いと言っている訳ではなく、自然への好奇心や不思議さに気づく機会が少なくなったのではないかということを言いたいのです。バイオ研究者の皆さんは、もっと自然を探求する、愛する科学者であるはずですね。皆さん、是非、バイオ研究者でなく、科学者Scientistを名乗ってください。

  大きな書店の理科学コーナーに行くと、ゲノムの解説書か実験法マニュアルが書棚のほとんどを占め、マニュアル崇拝の研究者向けがほとんどです。ゲームの攻略本コーナーと錯覚する思いです。科学者には、専門雑誌で十分かもしれませんね。

   さて、日常生活に自然に触れる機会をつくり、「野外へ出よう!」。休日の朝の散歩や通勤、通学時、ちょっと、遠回りしては、いかがですか。身近で観察し、触れることにより、きっと、そこには、何か素朴な発見があります。

  最近、皆さんは、ミノムシを見たことがありますか。秋から冬にかけて、木々が葉を落とすと、枝に、さりげなく、ユーモラスではあるが、少し、孤独な佇まいで、ぶら下がっています。どうも、最近、見掛けなくなったと思ったら、やはり、西日本では、1990年ごろから激減しているとのことです。いなくなると無性に会いたくなるものですね。家の近くで、やっと、見つけたのは、数年前の抜け殻でした。

 激減した原因は、オオミノガにのみ寄生する外来種のオオミノガヤドリバエ (Nealsomyia rufella) で、中国大陸から侵入したと考えられているようです。名前まで専属についている虫に狙われたらオオミノガも堪りませんね。黄砂などの自然現象で飛来したのではなく、中国との貿易額が、急激に伸びだした1990年代と符合するので、中国産の輸入品に紛れ込んで来たのではないでしょうか。もちろん、冷凍餃子に入った殺虫剤メタミドホスの経路ではありません。こんなところにも、経済の国際化の影響が出ているようです。他方、メジロなどの鳥による捕食が原因と考えられ,捕食によりミノムシの生存率は著しく低下したとの報告もあります。(池田浩一 森林防疫 Vol.37 No.2 Page.28-31 (1988.02) ) 私が見つけたもののように抜け殻だけの残っているのは、鳥によるものとのことです。
 
  ミノムシは、せっせと、蓑を作って、背負いながら、脱皮を繰り返して生活をします。一生をかけて、転居しながら、住宅ローンを背負って生活するサラリーマンにどこか似ています。長い冬を蓑のなかで、越冬し、蛹になり、初夏のころになると羽化して、蛾になります。しかし、それは、オスだけで、メスは、ミノムシのまま、蓑の中で暮らし、一生を終えるとのことです。嫁という字も不思議に当てはまります。このオスとメスの遺伝子解析をすると、面白いデータが得られるかもしれませんね。形態的には大きな変化ですが、遺伝子レベルでは、少しの差かもしれません。オスは、蛾になると、もちろん、蓑の中には戻りません。これも、遅くまで酒場で飲み歩き、家に戻らないサラリーマンを連想します。やがて、性フェロモン (R)-1-メチルブチルデカノエ-ト(あんまり、いい臭いとは言い難そうな化学式です)RHAINDS M et al. Appl Entomol Zool Vol.37 No.3 Page.357-364 (2002)  を発散しているメスの居る蓑に引き寄せられ、取り付き、交尾して、全エネルギーを使い果たし、満足して?一生を終えるのです。メスは、幼虫時の蓄えた資源の2/3を使い、1,000個以上の卵を産卵し、大きな役目を果たした後、孵化するころに死にます。

  そんな人生、どこに、楽しみがあるのでしょうねえ。「何を言ってる、人間だって、同じだろ」とミノムシから一斉攻撃が聞こえて来そうです。

  子供のころ、蓑を無理に開けようとしたとき、非常に頑丈な構造だったことを覚えています。この蓑は、微細構造からみて多孔性繭糸やち密性繭糸などがあり,その機能性を生かした商品の開発が期待されています。

ワイルドシルク開発-今,何をすべきか、 新素材としてのワイルドシルク開発
  赤井弘 野蚕No.53 Page.3-6 (2005.03)

 将来、ヒトもミノムシ素材の防寒服を着て、冬を過ごすことになるかもしれません。ますます、ミノムシに似てきます。その時、オオミノガヤドリバエのような外敵で、人類絶滅の危機に陥らないように、気をつけなければ、いけません。


蓑虫庵
 芭蕉の門人服部土芳(どほう)の草庵で、芭蕉五庵の中で唯一現存します。貞享(じょうきょう)5年(1688)3月芭蕉がここを訪れ、庵開きの祝いに「蓑虫の音を聞きに来(こ)よ 草の庵(いお)」の句を贈ったことから、蓑虫庵(みのむしあん)と呼ばれるようになりました。(伊賀市・名張市広域行政事務組合HPより引用)

   次回も、どんな自然に出会うか楽しみにしてください。


***  お薦め書籍  ***

 『コーチングマネージメント
  伊藤 守 ディスカヴァー・トゥエンティワン社

   「コーチング」については、いろんな本が出ているのですが、日本唯一の国際コーチ連盟マスター認定されている伊藤守氏の基本書「コーチングマネージメント」を取り上げました。人はどのような動機で行動を起こすのか?どのような条件が揃えば、行動を変えるのか 頭でなく、本人自身の体全体で熱く感じる回答を導き出すことができるのかのヒントをいろんな事例を引き、具体的に分かりやすく説いています。

   予定表にあるとおり、やなければならないことは、分かるんだけど、何となく、やる気がしないなあ ・・・ということは、ありませんか。社会保険庁の一部に見られる取り組みの例を出すまでもなく、日本中の組織、企業で、学校で、役所で、この「中々、行動に移せない」症候群が蔓延していると思いませんか。すばらしい業績を残した人の陰には、すばらしいコーチや指導者のアドバイスの一言があります。読者の中には、部下や後輩の指導に当たる立場の方、指導を受ける立場の方が居られると思います。コミュニケーションのツールとしても、一度、読んでおいて頂きたいですね。

(昼休みのベンチ)
2008年4月掲載

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