コーヒーブレイク

「アメリカ東海岸留学日記」 第9回


 

> 2008年 8月 28日  「一時帰国」

  この夏1年半ぶりに一時帰国することになりました。私の勤める大学ではポスドクの雇用は公式には一年更新のため、ビザの有効期間も一年となります。アメリカに滞在する分には滞在許可証にあたるものがあれば良いので、ビザの有効期限が切れてもアメリカ国外に出なければ問題はありません。しかし、一度旅行や帰国で国外に出てしまうとビザが切れているので、アメリカ国外の大使館・領事館で再申請をする必要がでてきます。つまりビザは、滞在許可証を元に作成された入国切符であって、滞在自体に必要なものではありません。

   私の場合は今回J1ビザの再申請を行うということで、DS-2019という滞在許可証を大学から発行してもらっています。この許可証の発行はAppointment letter (雇用契約書)に基づいています。滞在許可証の期限が切れる前、私の場合は3月に、ボスと雇用契約更新を確認しました。それを受けて、大学の事務に新しいAppointment letterを作成してもらいました。その後、Appointment letterと申請したいビザの種類にあわせて、international officeが新しい滞在許可証(J1の場合はDS-2019)を作成してくれました。学内だけの手続きのため、DS-2019は申請から1週間ほどで発行されました。ビザの再申請には、この許可証とその他の書類を揃えて帰国時に大使館に行くことになります。

   さて私は帰国後すぐに、ビザ申請料金を支払い、インターネットでアメ
リカ大使館での面接を予約しました。大使館への面接は、夏は大変込み
合います。学生ビザを含む全てのビザの面接者や中国からの面接者も
含まれるためです。私は余裕をもって、面接の2週間前には予約を済ませ
ました。面接予約では日にちと細かい時間を指定することができます。
しかし、この面接予約時間というのは受付開始時間であって、実際にこの
時間に米国大使館の人々が時間を空けて待っていてくれるわけではあり
ません。この時間までに大使館に到着し、ビザ面接予約者専用の行列に
並び始めることができるだけです。夏は特に長蛇の列となるため、例えば11時に予約しても、外で待つこと1時間というのはしばしばです。

   朝一番の予約だと待ち時間は比較的少なくはなります。そこで、私は朝早めの予約をとりました。それにも関わらず、炎天下で待つこと40分、やっと建物内に入ることができました。待ち時間のために、私は帽子や飲み物を用意してきましたが、準備の無い方々はなかなか大変そうでした。次に、建物に入る際は飛行機に乗る時のような安全チェックを受けなければなりません。そして、食べ物や液体類、携帯などの電子機器はすべて預けなければなりません。その後、面接をする建物の入り口で書類のチェックを受け、不備が無ければ中に入って申請を開始することになります。
 

  建物の中は一般的なアメリカの役所のデザインです。空港などで見る両替所のようなガラス張りのカウンターが壁一面に10個ほどならび、その各カウンターの窓ガラス越しに大使館員が座っています。それらカウンターの向かいには、順番待ち用の椅子がひたすら並んでいます。消音設定のTVはありますが、アメリカのニュースが流れています。そしてエアコンディショナーが、これもアメリカ設定で、クーラーがガンガンにきいています。私は思わず持参したパーカーを着込んでしまいました。

     さて、申請書を最初の窓口に提出後、指紋をとる窓口で指紋をとり、そ
   の後面接官のいる窓口に進みます。面接といっても、面接する部屋も椅
   子も用意されるわけではなく、まるで銀行のカウンターで新規の口座開設
   をするような具合です。窓ガラス越しに面接官が話しかけてくるので、そ
   れに答えるというだけです。私は2回目ということもあり、聞かれたことは
   「what is your subject?」で、「biology」という一言を答えて終了してしま
   いました。この一言の会話のために、建物内で待った時間はさらに40分
   ほどでした。つまりトータルの待ち時間としては1時間半くらいとなりました。

   ビザは、申請した当日には発行されません。パスポートに貼付された形で、後日エクスパック500(速達郵便)で届けられます。1度目の申請時には1週間ほどかかりましたが2度目の今回はなんと3日で届きました。ビザ申請には一般的には1−2週間かかるはずですが、私が申請したJ(交流訪問者)ビザはH(就労者)ビザなどに比べて取得が楽と言われています。2回目ということもあり、今回は処理が早く済んだのかもしれません。Jビザは、最初の2年間非課税という利点からも、ポスドクの人の多くは最初の3−5年間をJ1ビザステータスで過ごします。そしてその後、Hビザに切り替え、さらにアメリカに残る場合はGreen Card(永住権)の取得に移るというわけです。

   今回、私は、実は昨年中に取得したフェローシップの資金をベースにDS-2019を作成してもらいました。そのため今回の更新で、フェローシップが切れるまでの向こう3年間はJ1ビザステータスを保持することができるようになりました。つまり、3年間は米国内外をビザの更新無しで自由に行き来することができるわけです。今回、他の選択肢として、ボスから支給される給料をベースに、DS-2019を作成することもできました。ただその場合は、大学の規定に従うことになるわけで、私の勤める大学の場合、1年ごとの更新となるのです。滞在許可証の有効期限はつまり、生活を維持するに足る資金が何年間支給されるのかということで決まります。その出所は雇用主であっても個人のフェローシップであっても、そして両方であっても良いわけです。
 

  さて、帰国時に他に行ったことで、私にとって最も重要だったこと
の一つは、日本食を堪能することでした。日本と比べると、アメリカの食事
は私の口には合わず、またバラエティーに乏しいのです。この意見につい
ては、複数の在米日本人および複数の在米ヨーロッパ人が同意してくれ
ているので、個人的な好みの問題だけではないと思います。アメリカでは、
大量に安くという食文化が強く、品質とバラエティーについて考えるという
習慣は一般的ではありません。白米がおいしくないのは言うまでもないで
すが、救いがたいのはパンもおいしく感じられないことです。ヨーロッパ人がアメリカの食事を悪く言うのはそこにあります。チョコレートのようなシンプルな菓子類も私の口には合わず、素材の味を楽しむということはまずできません。結局サンドイッチやピザなど、味をドレッシングやソースでごまかした料理となるわけです。

   個人的に、アメリカの方が美味しいと思った唯一の料理は、フレンチフライくらいでしょうか。向こうでは、品質の低い高カロリー食品が大勢を占めるので、マクドナルドでさえ、それほどジャンクな食べ物ではなく見えてくるから不思議です。日本と同程度の品質の野菜や魚介類を手に入れようとすると、WHOLE FOODSなどのオーガニック専門店で高額を支払って揃えねばなりません。面白いことに、このような高級スーパーでは日本人との遭遇率がかなり高いのです。私の済む地域では、通常のスーパーや、大学内でさえもそれほど日本人と出会うことはないのですが、この高級スーパーに行くと、日本語をそこここで聞くことができるのです。留学生など、資金繰りが厳しい人々でさえ利用することも多いようです。思わぬところに日本の国民性がよく現れていて面白いと思います。
 

  一方、アメリカの飲料については、一つ良いと思う点があります。ビールの種類が豊富で価格が安いことです。1箱6本を6〜8ドルで購入することができます。種類については、州ごとの地ビールや、海外からのビールなど、味も見た目も異なるビールが多数、小さな酒屋にさえあります。日本のビールもたいてい2、3種類は売られています。日本にいる時は、私は割と日本酒や焼酎が好きだったのですが、アメリカに行ってからはビールで満足できるようになってしまいました。といっても、品質の高い日本酒や焼酎は、元々アメリカでは手に入りにくいというのもあります。日本酒は、料理酒に使えそうな程度の物が、たまに大変な高額で売られているくらいです。液体は日本から船便で送ることもできないため、私は今回品質の良い日本酒を一本、スーツケースに入れて持って帰ることにしました。

   しばらく日本を離れていて改めて感じたのは、日本人の食事と健康への
こだわりの強さです。テレビなどで、1日30品目摂取しましょう、などという
言葉を聞くと、なんて健康的な思考だろう、と思わずにはいられません。
コンビニ弁当や駅弁さえも、今の私には、美味しく健康的に感じられます。
アメリカでは、日本の食べ物ならば何でも体に良く、ダイエットにも良いと
信じている人々が何人もいます。中には寿司でダイエットができると信じ
ている人もいました。当初は盲信も甚だしい、と思っていましたが、今や
その気持ちが少しだけわかってしまいます。日本の食事が何でも健康的
という訳ではもちろんないのですが、ジャンクフードから超健康食品まで、簡単に手の届くところにいつでも用意されている、という点が異なると言えます。またジャンクフードでも、日本の場合は使用されるチーズや肉、油の量が格段に少ないと感じます。

   渡米した日本人の多くが最終的に日本に帰ってくるのは、このような食生活を含めた、仕事以外での生活の豊かさを求めてではないかと思います。反対にアメリカ生活を心から楽しんでいる人を何人か私は知っていますが、偶然かどうか、食に拘りのない人が多いようです。食事は日々のちょっとした楽しみですが、その楽しみが継続的に削られるというのは思ったより大変なことなのだと渡米して発見しました。万年ホームシックな胃袋で、私のアメリカ生活はもうしばらく続きそうです。

  写真は帰国時に撮影した大使館前の長蛇の列と、日本の風景と食材です。
 

(コンドン)
2008年9月掲載

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