「昼休みのベンチII」 第23回

『野外へ出よう!』(第23回)  <2012年2月>

   東日本大震災、福島第一原発事故、円高、消費税引き上げそして欧州経済の危機などの不安を抱えながらの平成24年の新年を迎え、1月が経ちました。社会がどう変わろうと、自然は何事もなかったように、朝日が昇り、時を刻んでいきます。私も元旦に近くの神社の初詣の後に、いつものアオサギの繁殖地を訪れて見ました。すると、そこには、こんな真冬の時期にも関わらず、ツガイと思われる二羽が、近くに舞い降りてきていました。昨年、ここで生まれたのでしょうか、まさに、帰巣本能です。

 人も正月には、故郷に帰省したくなるのも帰巣本能から来るのでしょうか。帰省すれば、家族、親戚、友人に会えるからでしょう。それとも、ご馳走やお年玉というメリットの所為でしょうか。日本国民にとって最重要の伝統行事であるお正月には、多くのメリットがあります。初日の出を拝むことは、光を直接浴び、脳内物質のセロトニンの分泌量を増やし、心と体のバランスを整え、穏やかな気持ちで、心のわだかまり解きほぐし、新たな前向きの気持ちになります。そして、多くの日本人が出掛ける神社への初詣では、過去の災いや不遇に決別し、反省をし、けじめをつけて、新しい行動目標や願いをかけて、新しい1年の計画や実行の意思を固めることをします。玄関には、しめ飾り、床の間には、鏡餅、盆栽などで、迎春への気持ちを引きしまます。

   この新たな決意は、日本国民全体に、一斉に行動を起こす大きな推進力となります。幾度も国の危機を乗り越えてきたのは、私は、正月の決意のような気がします。

   年末に購入した我が家のミニ盆栽を紹介します。(写真右)松、カエデ、十両、福寿草、リュウノヒゲ、コケの草木に、石と白砂と、小さいなりに豪華な?盆栽です。松は、五葉松ではありませんが、やはり主役です。

   カエデ(蛙の手が語源、葉の切れ込みが五つ以上のカエデ属だけをモミジと呼ぶそうです)は、華やかさを表し、十両(ヤブコウジ)の赤い実は、大きなアクセントになっています。十両の仲間には、万両、千両(仙蓼)、百両、一両があり、豪華に揃っています。どうも背丈の高い万両、千両と低い百両、十両となっており、千両は葉の上の方に実をつけ、万両は葉の下に実をつける。百両の葉は細長くギザギザがなく、十両の葉は細長くギザギザ があるところで見分けるとのことです。
 
               (左上写真 千両、右上写真 万両)

   そして、福寿草、別名、ガンジツソウ(元日草Adonis ramosa)は、名前のとおり、正月飾りにはなくてはならないですね、ただ、毒(アドニン)が含まれていますので、食べてはいけません。今年は辰年、当然、リュウノヒゲは登場します。最後に、コケが大きな役割を担っています。盆栽に、熟成した長い年月の流れを、特に、石に付いたコケが演出します。想像することにより時空間を大きく広げ、小宇宙と歳月を演出する小さな庭の盆栽も誇るべき日本の文化です。盆栽より、規模が大きいのが「日本庭園」です。

   先日、京都の国立博物館や三十三間堂の近くにある智積院(チシャクイン)を訪問しました。ここには、桃山時代に長谷川等伯らによって描かれ、祥雲禅寺の客殿を飾っていた金碧障壁画、国宝「楓図」「桜図」「松と葵の図」「松に秋草図」等があります(収蔵庫内)。「等伯」は、石川県七尾出身の下級武家で、狩野永徳一門に単身、挑み、一流画人となったことから、今も人気があります。金箔の豪華さを背面に、水墨画の素朴さ、松の幹の荘厳さ、葉の力強さなどが迫ってきます。複製壁画のある書院造りの祥雲禅寺の反対側に目をやると、すばらしい日本庭園が広がっています。手前に池、築山に松、岩、6月に彩を放つツツジを配し、借景には、東山山麓が遠望でき、静寂さと自然の拡がりを観ることができます。書院造りの廊下に出ると(別の部屋に行くにはこの廊下しか通るところがない)、いつも、この庭園が目に入る日常は、四季折々に心安らかな日々を過ごすことが出来たことでしょう。昼は、飛来する鳥と遊び、花木を愛(め)で、静寂な中、茶室で、来客をもてなし、夜は、月の明るさを利用して、庭を眺め、住居と庭が一体となった形で生活するスタイルを満喫したことでしょう。

                                (左写真 祥雲禅寺庭園 右写真 中国蘇州の庭園)

   中国の庭園は、広く、庭を逍遥し、池に舟をうかべ、庭の中に身を置くことが多い。日本の庭園は、兼六園などの大きな庭園もありますが、やはり、書院造りの住居の縁側から眺めるのに向いているような気がします。

   日本の良いところの見直しが始まっています。「クールジャパン」と呼ばれるアニメや食文化の日本独特の文化・ソフト産業を新たな輸出産業に育成しようとする官民挙げての取り組みがあります。テレビ番組では、老舗や伝統工芸、地方の特産品、そして、製造業、特に中小企業の職人技などを紹介して、人気があります。懸命に、日本人に自信を取り戻し、誇りを持たせようとしているようにも映ります。他方、世界の人々も、今回の大震災での報道で、日本人に、あらためて尊敬の念を抱き、好感を持っています。この機会に日本の和(なごみ)を大切にする考えを世界に広め、「クールジャパン」の成功を祈念したいと思います。

参考図書

1. 世界が感嘆する日本人海外メディアが報じた大震災後のニポン 別冊宝島編集部 (宝島社新書)

***  お薦め書籍  ***

 『日本はなぜ世界でいちばん人気があるか
    竹田 恒泰著 2010.12 PHPs

  著者は、明治天皇の玄孫にあたる人で、すこし、その分を差し引いて読む必要がありますが、それでも、日本人なら、知っておく必要があり、これまでと軸足をずらして、日本を考えることができると思います。「もったいない」という言葉は、消費削減、再使用、資源再利用、修理の4つの意味を表し、他の言語にそれを表現できることばがない。食事の「頂きます」は、生産者に、命ある食材に感謝する気持ち(命を頂きます)を表し、そこには、自然への敬意が表現されています。天皇は君臨するが、国民の幸を祈るために存在することを日本人が知っていることが、日本だけが唯一の神代の昔から王朝が続いてきた理由の一つと考えられる。欧州のローマ法王が近いかもしれない。

   資源、エネルギー持続可能な社会へ、つまり、益々、自然と調和が必要な社会の形成が求められる時代において、日本の自然と共に生きる和の考えを実践することで、世界で尊敬される日本になることは、そんなに難しいことではないと思います。

(昼休みのベンチ)
2012年2月掲載

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