「昼休みのベンチII」 第20回

『野外へ出よう!』(第20回)  <2011年8月>


   6月末に例年のように国際バイオEXPO(東京ビックサイト)の会場をぶらつきました。しかし、今年は、大きな違いがありました。いつもは、アメリカの各州、欧州の各国、中国、韓国と海外政府、自治体が競って大きなアイランドを作り、美しい女性販売員が、パンフレットを配っており、まさに、国際展示にふさわしい風景がそこにはありました。それが、今年は、全く、その姿が見られませんでした。福島第一原発事故の影響です。日ごろ、開放系の実験室で、アイソトープ実験を平気で行っている欧米研究者の彼らが、何とナーバスになっているのか、と訝りました。しかし、その後、牛肉、農産物等にセシウム汚染のニュースが流れてくると、逆に、私どもがその無知を知ることになりました。


   今回も前回に続き、「チョウ」の話しです。しかし、野外に出ても、なかなかチョウを見かけなくなったし、見つけても、デジカメに収めることが難しい。そんな時、伊丹市昆虫館では、チョウの放し飼いが行われていることを思い出し、早速、出かけることにしました。「松が丘」というバス停でおりると、すぐ前が、昆陽池(こやいけ)公園で、大きなため池があり、野鳥、水鳥の生息地となっています。その脇に静かな緑のトンネルとなった小道があり、昆虫館へとつづいています。(写真右)

   その途中、慈円(1155〜1225)の歌碑があり、「ゑにかきて今唐土の人に見せむ 霞わたれる昆陽の松原」と刻まれている。名勝を見慣れた唐土(中国)の人に、今すぐにでも、絵に描いて見せたいと詠んでいます。
陽池は、昔から風光明媚な景勝の地だったようです。10分近く歩くと、やがて、童話の館のような昆虫館が現れました。(写真左下)

   その入り口を入ると、すぐに、10倍に大きくなった虫の世界が開けました。(写真右上)そして、その奥のチョウ温室の扉を開けると、すぐに、目の前にコノハチョウが出迎えてくれました。(写真左下)あとは、乱舞するチョウに、夢中になり、シャッターを押しまくりました。以下がその写真です。ご覧ください。1200匹ものチョウが乱舞する温室は、まさに楽園そのものです。


(写真)チョウの写真上から
一段目(左)コノハチョウ(右)マツベニチョウ
二段目(左)オオゴマダラ(右) 蜜皿に集まるチョウ
三段目 (左)ツマムラサキマダラ (右)スジクロカバマダラ
四段目 クロアゲハ


   この温室のチョウの多くは、沖縄出身とのことです。沖縄本島や八重山諸島の石垣島、西表島、竹富島は蝶の宝庫です。なぜ、この地方には、そんなに種類が多いのでしょうか。そのさらに、南のニューギニア島には約950種類もの蝶たちが生息しており、まだ、発見されていない蝶がまだまだいるとのことです。これらのチョウが、島伝いに北上して、生息していると考えられます。


   大阪府大の吉尾政信先生らの研究「ミトコンドリアゲノム解析に基づいたナガサキアゲハの日本への侵入経路の推定」 日本応用動物昆虫学会大会講演要旨Vol.48th Page.26 (2004.03.01) などで、チョウの分布や経路の解明が待たれます。


    全回、北アメリカに分布するオオカバマダラの渡りについて触れましたが、日本でも渡りをする珍しいチョウ「アサギマダラ」がいます。


   日本など東アジアに生息するのは アサギマダラだけで、春から夏にかけて本州の高地や北海道南部で暮らし、秋に南日本や台湾方面へ渡るという。「アサギ」とは、浅葱色のことで、羽が、ごく薄い藍色をしていることから名付けられた。京都学園大非常勤講師の藤井恒さんらの研究グループの記録によると、山形―沖縄・与那国島の2246キロ・メートル(直線距離)を飛んで移動していたそうです。「百万石蝶談(ちょうだん)会」などの愛好者が翅にマジックインクでマーキングをして、放ち、捕獲者からの連絡を待つという方法が広がっているようです。確かに遠く2000Kmも離れたところから捕獲の連絡が入ると、小さな昆虫の健気に、海山を飛び続ける姿を想像し、壮大なロマンがありますね。チョウの道があり、日差し・樹木・温度等によって決まっているとのことですが、この理由や風では広大な海の上を渡っていくのは、説明がつかないですね。


   チョウの推定寿命は、ナミアゲハやコノハチョウの30日からオオゴマダラの60日程度です。その短い間に出来るだけ遠くに出かけ、優生遺伝子を子孫に残す生物の本能でしょうか。


   夏休み、子供たちは、自然に触れる機会が多くなりますが、最近、昆虫嫌いの子供が増えていると聞きます。どうも親の影響のようです。小さな生命をじっくり観察すれば、親しみや疑問、新しい発見があります。是非、お近くの昆虫館へご家族で、ご一緒にお出かけください。

参考: 「蝶の道 Butterflies」 海野和男 著 東京農工大学出版会 (2009/01)

***  お薦め書籍  ***


 『アメリカの小さな大学町
    蒲田 誠親 著  玉川大学出版部 1994.11

  今回の大震災以降、価値観が変わったという方もあると思います。この本によっても、古き良き時代のアメリカの田舎町モンタナ州ミズーラに過ごす知識人のクオリティー・オブ・ライフを垣間見ることが出来ます。

  この地方であっても、大学職員に対しては、外部からの点検、自己評価は、厳しい環境下にあることは変わらない。大学教授には、定年がなく(定年制度は違憲)、進んで転職するか、毎年の評価(給与が下がり)により、自ら辞めていくことになります。もう1つの名誉ある撤退(非常勤)が残されています。日本の大学(教育とアカデミック研究)と社会のつながりの回復(構造改革)は、こんなところから始めなければならないでしょう。

(昼休みのベンチ)
2011年8月掲載

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