「昼休みのベンチII」 第13回

『野外へ出よう!』(第13回)  <2010年6月>

   5月1日に上海万博が始まりました。大阪万博から40年、中国経済は当時の日本の発展と同じ軌跡で発展していくのでしょうか。おそらく、それ以上の速さで、日本を含むアジアを巻き込んで、発展?していくものと思われます。「より良い都市、より良い生活」という上海万博のスローガンには、「国際協調の中で」という前提がついていないのが気になります。ちなみに、大阪万博のスローガンは、「人類の進歩と調和」でした。日本は、先進国として、国際調和のルールのお手本を見せていく役割があります。

   その国際的な協調が必要なものに、生物多様性条約があります。生物の多様性を「生態系」「種」「遺伝子」の3つのレベルでとらえ、生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目的とする国際条例です。

    残念ながら、4月30日、国連環境計画(UNEP)などの科学者チームは、米科学誌サイエンスに「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という国際目標は達成できなかったとの分析結果を発表しました。自然保護区の拡大は進んでいるが、生物種の個体数の減少や外来種の増加傾向に歯止めがかかっていない。生物種の個体数や絶滅危惧種の数、海の食物連鎖で生態系の上位にある魚が占める比率など「生物多様性の現状」に関する10の指標のうち8で悪化傾向が続き、多様性損失に歯止めがかかっていないとのことです。

参考:環境省ホームページ 環境白書

トキ
学名:(Nipponia nippon)コウノトリ目トキ科 国立科学博物館(上野公園)の展示。原種が日本というだけでなく、学名どおり、顔が、日の丸に似ていますね。

 日本では、絶滅種の象徴的なトキがいつも話題の中心です。保護ケージの中で、イタチに襲われた事件は記憶に新しいと思います。また、連日の報道で、佐渡市で放鳥されたトキが営巣と抱卵が確認されましたが、今年は、元気な若鳥を見ることは出来ませんでした。

 この新緑の季節、鳥類は、巣作り、抱卵を行い、子育ての季節です。木の実がなり、花が咲き、虫が、大量に羽化し、餌にも事欠きません。愛鳥週間(5月10〜16日)は、この時期に合わせています。ただ、巣箱をこの時期に設置するのでは、遅すぎるようです。ともかく、私も、郊外に出かけ、鳥たちの営巣の行動を観察に出かけました。

   まずは、 いつも通る道のクリーニング屋さんの店先に行きました。ツバメの巣です。やはり、今年も、やはり、やって来ていました。4匹のヒナが、エサを待ち焦がれています。でも、最近は、ツバメの巣を見かけなくなった気もします。

つぎに、近くの神社の境内の森で、ヒヨドリの声を聞きながらの観察です。



写真(上左)の木の上の巣は、写真(上右)のヒヨドリのものではないかと思われます。ヒヨドリは、市街地では、よく見かけるようになりました。

  しばらく歩くと、ため池のアシ原で、親鳥10羽、子が5羽くらいのアオサギ(コウノトリ目 サギ科Ardea cinerea)の集団(コロニー)が巣作り、子育てをしているところに出くわしました。アオサギの産卵期は、4〜5月で、卵数は3〜6個。美しい緑青色で無斑、抱卵日数は25〜28日、巣立ちまでの日数は50〜55日である。雄雌交代で抱卵する、とのことです。写真(左)のアオサギの巣の中に青色の卵が3個、見えます。意外と小さな卵です。この日は、真夏日で28度くらいあり、抱卵の必要がなかったのでしょうか。

写真(下左)は、親鳥の左にヒナ鳥が二羽います。また、写真(下右)では、親鳥がだいぶ成長した薄茶色のヒナを見守っています。 すべてのヒナが無事に育ってくれることを願っています。

 

 人間の活動が入江の鳥類に及ぼす影響を調べた報告書(BURGER J. Biol Conserv Vol.21 No.3 Page.231-241 (1981.11))  では、鳥は,人のジョギングなど近くの,急激な動きで飛び立ちます。カモメ、アジサシは妨害を最も受けにくく、元の場所に戻ってきます。人間を無視して、自分たちで楽しんでいるようです。カモは池の中央部に降り立ち、適度な距離を置いています。アオサギやシラサギなどは遠方の沼まで飛んで行き、戻ってきません。これまでの人間との長い歴史がそうさせているのでしょうか。このように警戒心のつよいアオサギも、ゆっくり歩く観察者だったら、飛びたたないとのことです。もちろん、この子育ての時期のアオサギは、逃げるわけにはいかないので、気がついていても、開き直って、飛び立ちません。子育ての邪魔をしているこちらに、後ろめたい気持ちを起こさせます。 ゆっくり、後ずさりしながら、帰宅することにしました。

 こんなとき、いつでも、観察できるのが、兵庫県立コウノトリの郷公園のコウノトリです。インターネットのライブカメラで、自分でアングルを調整し、見ることが出来ます。一度、覗いて見て下さい。(※現在はライブカメラは終了していますが、ライブ映像が配信されています。)

 2010年は、国連が定める国際生物多様性年で、10月には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。その一環で、国立科学博物館(東京 上野公園)では、「日本の生物多様性とその保全」5月1日〜7月19日の企画展を開催しています。お近くの方は、是非、ご家族で、行かれてはいかがでしょうか。

***  お薦め書籍  ***

 『科学技術は日本を救うのか
   北澤 宏一 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2010.4

  工学部の教授にありがちな科学技術、絶賛でなく、日本経済停滞の現状や若者の無気力の原因を掘り下げ、現代社会を解析し、日本の役割、世界へ発信を提案する良書です。是非、理系離れの若い人たちに、特に研究者には、読んで頂きたい本です。なぜ、国民の預貯金1500兆円の半分が、ビジネスを知らない行政(国、地方自治体)に預けられ、官製の保養所や地方の高速道路、治水ダムの投資に向けられ、無駄に?消耗されて、財政赤字を生んでしまったか。国民が、企業の設備投資や海外為替のリスクを恐れ、株や投資信託に投資しせず、もっぱら郵便貯金、国債に頼ったことも要因と説く。しらけ時代の若者が尊敬する宮崎駿の世界を実現するために、もっと科学技術に投資すべき、そうすれば、将来、大きな効果となって実現するとのこと。若い人たちが、もっと、理系を目指す社会になれば、日本は、発展すると思います。また、明快な経済本とも言えます。

(昼休みのベンチ)
2010年6月掲載

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