「昼休みのベンチII」 第11回

『野外へ出よう!』(第11回)  <2010年2月>

   鳩山首相は、昨年末の国連の演説で、温室効果ガスを1990年比で2020年までに25%削減することを目指すと表明して、産業界には、大きな衝撃が走りました。そして、産官は、エコがキーワードになり、社会をその方向で、大きく舵を切り始めようとしています。プリウスなどのハイブリッド車がトップの売り上げになり、ソーラー発電もドイツに抜かれていましたが、巻き返しが始まろうとしています。日本には、水田や豊かな森、山林があります。これらは、炭酸ガス排出権取引の対象となるかどうかわかりませんが、温室効果ガスの最大の手段は、この水田や山林、そして日本列島を取り巻く広大な海です。国際取引となるなら、当然、これらも対象としていただきたいですね。

《下記の写真は、今の関西地方によく見られる常緑樹と落葉樹の混合林です。果たして、越冬するにはどちらが有利でしょうか。》


   童謡シリーズ第四弾、今回は「モミの木」です。♪・・・雪ふる真冬も緑葉しげる♪(ドイツ民謡 緒園涼子訳詞)。クリスマスツリーでおなじみのモミの木、いけにえ精霊が宿ると言われ、ささげ物をつるしたり、置いたりします。ツリーの一番上の星は「キリストの降誕」、ベルは「羊飼いのベル」、クリスマスカラーの赤は「キリストの血」、緑は「常緑・生命力の象徴」を表しているとのことです。この厳しい冬でも緑の葉を絶やさないモミの木も、温室効果ガスの削減に貢献しています。寒冷地でも、モミの木のように常緑樹があります。

  常緑樹といえば、日本の神社には、祠の後ろには必ず神木や鎮守の森となる常緑樹が繁っています。常緑樹は、生命力や精霊の象徴であることは、世界共通の思いと言えるでしょう。

 神戸の繁華街、三宮のすぐ近くには、生田神社があり、その社(モリ)の後ろには、「生田の森」があります。このような「鎮守の杜」こそ、コミュニティーセンターであり、エコロジー、共生の原点でもあるようです。

  最近、中高年の人たちが、屋久島の縄文杉を見に行くツアーが流行しているのは、常緑樹のもつ、その生命力にあやかりたい潜在的に思いがあるのではないかと思います。その登山道で土砂くずれがあったそうですね。行かれる方は、気を付けてほしいものです。

 冬季は落葉樹林と常緑樹林の違いが一番分かりやすい季節です。常緑樹と落葉樹の定義は、緑の葉が常にある(常緑樹)か,葉の無い時期がある(落葉樹)という当たり前のことのようです。もう少し、説明を加えれば、樹木が生きているということは、光合成で蓄えた糖分などを使い、呼吸によりエネルギーにして消費し、体温を確保し、成長や運動をすると云うことですが、それには、十分な光と、適切な気温と、必要な水分、僅かな養分、無機物などが、必要です。

  しかし、それら光合成を行うための十分な光量の条件(日照時間、日照角度)が得られない厳しい冬の下では、むしろ生きて「呼吸」している部分(葉)が大きな負担になってしまいます。そこで、「呼吸」と「水分の蒸散」の激しい葉をすべて、落とし、負担を減らす戦略をとるのが、落葉樹ということになります。そこまで、葉の「呼吸」と「水分の蒸散」の負担がなければ、葉を落とさず、光合成で得られるエネルギー量が多ければ、常緑樹になるということです。

 常緑樹は、暖かい地方に多く、落葉樹は、寒冷地に多いそうです。寒冷地の落葉樹は、葉を落とし、木の下に落ち葉を集め、腐葉土として発酵させ、発酵熱で、自らの根を、寒冷に厳しさから守る戦略も見えてきます。そんな樹木の戦略も、ヒトには、通じず、街のクリーン活動で、落ち葉をすっかり清掃されてしまいます。

  他方、寒冷地帯でも、冬も葉を落さない常緑樹の多くは、日陰でもよく生育する「陰樹」であることが多いようです。そして、乾燥から守るために葉の面積を極力少なくした「針葉樹」になります。
大地にしっかりと立った樹木も、実はその大半を占める木質部は既に死んだ細胞で、地上部で盛んに活動しているのは「形成層」と呼ばれる樹皮と木質部の間にあるわずかな部分と、頂芽、それに葉だけとのことです。その葉を落とすことにより、呼吸エネルギーを大幅に節約することが出来るわけです。温和で、水分も豊富な地下では、根が、しっかり、息づいております。

  タンポポなどのような草花は、厳しい冬をどのようにして生き残る戦略を持っているのでしょうか。寒さと乾燥から守るために、地面の上に放射線状に葉を広げるというロゼットスタイルをとります。つまり、葉を広げ、地面につけ、地面からの水分と温度をもらうのです。「ロゼット」とは、バラの花のような形のドレスに付ける胸飾りのことだそうです。下の写真は、ビオラのロゼット状態を、寒さの厳しい朝(右)と夕方(左)に撮ったものです。


  動物は、冬眠、昆虫は、温かい土の中で幼虫や卵の形態で、冬を越しますが、ヒトは、どうでしょう。正月休みをコタツで、のんびり、ロゼットスタイルをとった親父は、生物学的には、理にかなったことのようです。

 樹木は、こんな厳しい冬を過ごしている間、春の訪れを知っているのでしょうか。それは、知っています。雪の積もった枝には、春になると大きくふくらむ葉や花になる芽、「冬芽(ふゆめ)」を見ることができます。冬の寒さと乾燥は樹木にとってもつらいものですが、その中で、僅かなエネルギーを使って、せっせと来るべき春の準備をしているのです。

   では、日本経済の春は、いつ訪れるのでしょうか。政府の成長戦略の中に「冬芽」は見ることができはずですが、今のところ、見つかっていないようです。

参考図書
1.植物と環境ストレス 伊豆田 猛 著 コロナ社
2. 雑木林の四季足田 輝一 著 平凡社
3. 植物という不思議な生き方 蓮見 香佑 著 PHP研究所

***  お薦め書籍  ***

 『経済危機は世界に何をもたらしたか
    伊藤 元重 著  東洋経済新報社 2009.12

 世界同時不況をもたらしたリーマン・ショックから、1年経っても、まだ立ちあがれない日本経済、他方、中国、インドなどの新興国は、すっかり立ち直り、当の米国さえ、前向きに歩んでいるように見えます。この辺で、今回の不況について、グローバル経済、マクロ経済の専門家の解説を読み、今後の世界経済のトレンドを予測しておくために、自分の中で、整理しておくことが必要と思っていました。

 そんな機会に良いタイミングで、この本が出版されました。今回の世界不況の遠因は、世界中の団塊世代(ベビーブーマー)の退職年金(投資)によるカネ余り現象によることで起きたと解析しています。この巨額のカネをヘッジファンドが、運用先を掘り起こす競争が激化したこと、IT技術の進化により、情報のグローバル化、債権の細分化を促し、サブプライム問題を引き起こしたと言えます。国内生産+輸入=消費+投資+政府支出+輸出 の関係式から、貿易収支(輸出−輸入)=国内生産−(消費+投資+政府支出)が導かれます。現在の貿易収支の黒字は、デフレで国内生産や消費、投資が、縮小、赤字財政で、政府支出が縮小して、この関係式から、日本経済が縮小していく危機感を感じ取れます。

(昼休みのベンチ)
2010年2月掲載

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