「昼休みのベンチII」 第6回

『野外へ出よう!』(第6回)  <2009年2月>

  前回は、ショウリョウバッタやアゲハの幼虫の保護色、周りの色と同化して天敵に見つかりにくくする擬態の話をしましたが、今回は、逆に、周りの色から浮き出た目立つ色を身にまとう昆虫を取り上げます。生物が外敵から身を守るために周辺の環境のデザインや糞や枝などに擬態して、見つからないようにするのは分かります。しかし、なぜ、目立つようなデザインを身につけるのでしょうか。特に、チョウ類が、昼間、鮮やかな色で、ヒラヒラと舞う姿は、捕食しようとする鳥やトカゲなどにとって、絶好の標的になると思うのですがねえ。ヒラヒラと舞うのは、枯れ葉や花びらの落ちる姿に似せているつもりでしょうか。
 
   左の写真のような黄色と黒の最も目立つ紋様(工事現場のトラ縞看板)のヒョウモンチョウは、目立ちすぎ。チョウのように空間を自由に移動する昆虫にとって、周りの色と合わせようがないからと居直っているようにも思えます。下の写真のようなイトトンボの羽のように透明になるのが、よいと思うのですがねえ。

   チョウが、目立つ色にしている理由は、諸説あります。1つ目は、目立つ色にしている昆虫は、毒を持っているものが多いことから、鳥やトカゲがその有毒な昆虫を食べて、えらい目に遭ったことから、その昆虫を避けるようになったという説です。「美しいバラには、棘がある」のと同じ原理で、近づいてはいけないと知らせているのです。その毒を持つ昆虫にあやかって、同じような模様にして、私はここに居ることを知らせて、毒を持っていないにも関わらず、「食べるとえらい目にあいますよ」というメッセージを送り続けることで、身を守っているということです。Bates型擬態というそうです。そ知らぬ顔をしていますが、内心ひやひやものですね。でも、この説の裏づけには、捕食する鳥やトカゲの脳神経系が十分、過去の体験を覚えているくらい発達しており、視覚的にも、そのデザインが区別できるなどの要件が必要ですね。

 2つ目は、現実的ですが、目立つ色にしている昆虫は、食べるとまずいという説です。確かに、誰でも、まずいものは、あえて、口にしないですね。しかし、果たして、鳥やトカゲは、餌食の味覚を味わいながら、食べるような食通のようには、思えないのですがねえ。そこで、鳥の味覚を調べてみました。鳥類の味を感じる味らいの分布は舌中央部の角状乳頭列よりも後方の部分といん頭口縁部にあるとのこと、鳥が食べるとき、くちばしを空に向けて、餌を飲み込んでいるのを見かけますが、あれは、口の奥で、おいしさを味わっている仕草ということでしょか。しかも、味らいを構成する細胞はI型,II型および基底細胞でその微細構造はほ乳類味らいのそれぞれの細胞型に類似しているということで、ほ乳類と同じく、十分、違いが分る男、いや鳥のようです。

 この写真のメジロは、十分熟した食べごろのミカンを味わっています。

参考 鈴木裕子, 武田正子 (東日本学園大歯) 歯科基礎医学会雑誌Vol.26 No.3 Page.669-678 (1984)
  目立つ色にしている昆虫は、まずくて、栄養的にも乏しいのでしょうか。

  3つ目に、チョウや蛾の仲間で羽根に目玉のような紋様をしているものが居ますが、あれは、ヘビや大型動物の目玉に似せて、鳥やトカゲが慌てて逃げていくようにしているので、理解しやすいですね。ベランダや田畑に大きな目玉を書いた鳥よけの風船を見かけます。チョウや蛾の戦略を頂いたアイデア商品です。自然に教わることは多いですね。他にも目立つ紋様の理由がありそうな気がします。新説が出てくることを期待しております。

  いつもの脱線ですが、肉食動物が獲物を見つけて、捕食する場合、動いている獲物を本能的に追いかけ捕まえる場合が多いとのことです。動く、すなわちタンパク性の小動物、獲物ということでしょうか。回転すしで有名なアイデア社長が、「なぜ、回転ずしが儲かるのか」と聞かれ、「人間も肉食動物、皿に乗った獲物(すし)が自分の前をとおり過ぎようとすると本能的に捕まえにかかるのです。しょせん、動物の習性です。」と答えていました。太古からの動物の習性に適っており、回転ずしの好きな私は、妙に納得しました。しかしながら、店をでると、満腹感とともに、ケージに入ったニワトリが餌を与えられているイメージが浮かび、何かやるせないような気分になります。

  夏の終わりに、下の写真のような人面顔の風変わりな昆虫を偶然に住宅地で見つけました。何とも、派手な白黒模様です。セミの仲間でヨコバイかと思いましたが、専門家にお聞きすると、蛾の種類とのことでした。蛾の種類は多く、調べるのに骨が折れましたが、何とか、ゴマフボクトウZeuzera multistrigata leuconotaという蛾の一種ということが分かりました。

   確かに、ゴマをまぶした斑(フ)の文様があります。日本全国に分布して生息しており、成虫の出現は、7月から9月ごろで、幼虫は、ブナやツツジの葉を餌にしているとのことです。擬態といい、このような紋様は、どうして出来るのでしょうか。植物の葉の斑入りと同じ原理なのでしょうか。

   女性科学者バーバラ・マクリントック(Barbara McClintock)博士は、植物の葉の「斑入り」現象をトウモロコシ細胞内の染色体上で位置を変える遺伝子(転移因子 トランスポゾン)の発見で見事に解明してみせたことを思い出します。(1983年ノーベル医学生理賞受賞) このことは、遺伝子は生まれながらに定まっているものと誰もが思っていましたから、衝撃的でした。

  ゲノムプロジェクトの進行により、ヒトやマウスのゲノムにおいてタンパク質をコードする領域は 1% 以下であり、残りの 40% 以上はトランスポゾンが占めていることがわかってきました。多様性を見出す仕組みがこの中にありそうですね。

 ゴマフボクトウの写真以外は、みすま工房・高尾信行氏のご厚意により掲載しました。

***  お薦め書籍  ***

 『科学者たちの奇妙な日常
   松下祥子 著 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社

   科学者の世界もようやく女性科学者の進出が目立ってきました。特に、医学、生物系では、女性科学者が活躍できる分野と思います。この本は、一般の読者向けに、その日常がブログ風に描かれています。ブログから本にしたのかもしれません。読者にとって、身近なお友達感覚で読めます。逆にいえば、「そうなんだ」程度の軽い内容ということにもなります。研究テーマは「おもしろそう」で決めると書かれています。その通りとは、思いますが、やはり、ライフワークとして、その底流には、何かの形で、社会への還元できる原理を見出してほしいと思います。研究費は、私立大学であっても、幾分かは国税を使っていることですし、なによりも、自分の貴重な時間を使って、生涯をかけて、研究する訳ですから。面白い研究テーマから新しい大発見が生まれることはよくある話ではあります。

(昼休みのベンチ)
2009年2月掲載

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