「再五 西海岸。の風に吹かれて」 第38回

第38回 分子「飛躍」学  <2013年4月>

   みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。
    エッセイも3か月ぶりで、この間に、いろいろなことがありましたが、まずは、この東洋紡の情報誌UPLOADが、めでたく百号刊行を迎えられたことをお祝い申し上げます。

   そこにも書かれているように、まだインターネットが普及していない時期に、先見的にUPLOADという単語を誌名に採用するなどされた当時の担当者とは、長いお付き合いで、その御縁で、このサイトにて雑文を書くようになりました。創刊号かあるいは2,3号だったか手元にないので定かではありませんが、バックナンバーには、私が当時、同好の士とともにパソコン通信を基盤として立ち上げていた、今風に言えば研究者版SNS活動の紹介記事なども載っていたと思います。その活動母体は10年近く前に休止しましたが、UPLOADのほうは、23年途切れることなく刊行されてきたことは喜ばしい限りで、百→ヒャク→ヒヤク→飛躍とこじつけて、分子「飛躍」学とした次第です。もう一っ跳びして、分子「秘薬」学とまですると、このサイトが一気に怪しげな雰囲気をまとってしまうので避けましたが、「飛ぶ」話を、思いつくままに。

  もともと、「風に吹かれて」というタイトルも、なんとなく、五木寛之のエッセイタイトルの借用で、のんびりと研究の合間に読んでいただけるものをと思ってましたが、このごろ、「西海岸。」に風に吹かれて飛んでくるのは、PM2.5とか。 午後2時半って何?ととぼけてみても、昼寝もゆっくりさせてもらえなくなるかもしれない物質であるようです。

   3月の初めには、ずいぶん、ひさしぶりに、海外に「招待」されて「飛ぶ」機会がありました。国際学会の特別講演にでも呼ばれたのならば、勇躍、飛び立つところですが、親戚の女性がシンガポールに嫁いで、その結婚披露宴への出席というプライベート旅行です。アジアへの旅行は、中国以外、初めてです。ちょうど帰りの飛行機のニュースで北海道の大雪のニュースで驚いたくらい、日本は、まだまだ、真冬の寒さだったのに、現地は、日本の感覚でいえば、一年中、真夏の気候です。3月でも、平均最高気温が30℃を超えるということで、そもそも、何を着ていけばいいのかというところから悩んだ旅行でした。

  現地では、仕事のシの字もなかったのですが、生命科学の周りを周回している研究者にとっては、ライフサイエンス振興を国策として推進している都市国家という点を、頭の片隅において、訪れてきました。イギリス連邦加盟国だから当たり前といってしまえばそれまでですが、街中の交通案内表示板も、すべて英語ですし、空港からホテルまで乗ったタクシーの運転手さんも、渋滞に巻き込まれたせいもあるのですが、1時間ほどの運転中、ひたすら英語というか訛りがかなり強い現地特有のシングリッシンでまくしたてており、こちとら、すっかりと錆が固まりきったジャングリッシュではとても太刀打ちできず、口が回らずに、文字通りに閉口しました。


  最近、大学でもシンガポールから来日した何人かの研究者の講演を聞く機会がありましたが、ヨーロッパやオーストラリア出身の方などが、よい研究環境で働いて成果を出している様子を垣間見ることができました。英語を公用語に使っていることにより、世界中から研究者を呼び寄せるための言語障壁がない環境というのは、大きい要因と思います。一方、日本では、今、センター オブ イノベーションという構想などが文部科学省などから提案されていますが、そこには、バックキャストとかフロントキャストとかアンダーワンルーフとか、従来の基礎科学研究者には耳慣れない英語か和製英語か判別しにくいカタカナ用語がちりばめられております。アンダーワンルーフというのは、国がリスクを負い、産学が一つ屋根の下でチームとして協働するというコンセプトのようです。内容をよく把握してないままの、私の誤解かもしれませんが、このフレーズだけを読むと、国が、雨風をしのぐ屋根を覆ってくれるということになるのでしょうか。そして、その一つ屋根の下に集うのは、日本人が中心ということになるのでしょうか?

   もう一度、シンガポールでの私的な体験にたちかえってみますと、披露宴会場は、新郎宅の庭で行うガーデンウェディングという、私にとっては初体験のものでした。シンガポールはこの時期、雨季でして、毎日のように夕立のようなスコールがあるということで、庭にテントは立ててありましたが、開始直前には案の上、大雨が降り、会場の椅子にも吹き込み、ずぶ濡れです。でも現地の人はあまり気にする風もなく、雨の降るまま、風の吹くままという感じで淡々としているようでした。これが日本だったら、会場設営の責任者は、対応に駈けずりまわって大変なところでしたでしょう。そして、そこに集ったのは、現地はもとより、日本や、新郎新婦が知り合ったきっかけになった留学先のオーストラリアでの知人など、国際色豊かなものでした。

   さて、話は、またまた、まったく関係ないところに飛びますが、最近、ゲノム解析関係で耳にしたのは、HeLa細胞の全ゲノムが解析された こと。 それから、アメリカのがん患者Jay Lakeさんの全ゲノムシークエンスもされたということ。それぞれの学問的、医療医学的に波及する問題課題はさておき、「西海岸。」流に考えた両者の関連は、HeLa細胞が樹立された原患者(本名Henrietta Lacksさん)は、当初は、実名を秘するために、Helen Lake とも呼ばれたことで、お二人の名前がどちらも偶然にしかすぎませんが、Lake つながりということです。が、今、あらためて関連ニュースを検索してみましたら、患者さんのプライバシー倫理問題が勃発しているようです。

  HeLa細胞は、私も数十年前に、初めて細胞培養を教わった際からお世話になっていた細胞なので、この件は、また注視していきたいものです。
みなさんも、どうかお元気で。

(西海岸。)
2013年4月掲載

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