「再三 西海岸。の風に吹かれて」 第30回

第30回 分子「鯰鰌鰯」学  <2011年11月>

   みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。

   10月中旬に三日ばかりですが、屋内とはいえ、雑踏のような場所で終日立ち尽くめの仕事があり、そのリハビリの意味もこめて、次の週に、海岸ではないですが外の空気を吸いに街に出かけてみました。とはいえ、そこは研究者のはしくれの悲しい習い性で、ある学会部会主催のフォーラム講演会の看板を見つけて、ふらりと吸い寄せられてしまいました。

   学会自体は、環境やトキシコロジー分野のもので私の専門からははずれるのですが、東京理科大学学長の藤嶋昭氏の教育講演のタイトル「研究も教育も良い雰囲気のもとで」に惹かれたのです。藤嶋先生は、毎年のように、ノーベル化学賞候補にもあがっており、高名な方です。講演内容はサブタイトルである光触媒のお話が中心だったのですが、学長の身でありながら小学生相手の講演も精力的になさっているとのことで、門外漢にもわかりやすい語り口。なかでも目を引いたのが講演冒頭のイントロで紹介された、今から156年前(1855年)に起こった安政江戸の大地震の直後に書かれた鯰(ナマズ)絵というものでした。地震を起こした鯰を要石(かなめいし)という巨石で押さえつけて、泥鰌(ドジョウ)に謝らせているというような説明でした。もちろん、「どじょう内閣」ともいわれる野田内閣発足後に講演スライドに採用したものでしょう。この絵、読者のみなさんにもお見せしたく、インターネットで画像検索してみますと、「ちかごろ泥鰌が人気で鯰料理の人気がなくなったのでちょっと揺らせてしまった。ごめんなさい。」というような説明がついたが見つかります。

    鯰が地震を起こすという言い伝えは、もちろん、「お話」の中の世界なのですが、この鯰絵を「ホモロジー検索?」にかけてみますと、れっきとした地震学者が参議院の委員会で参考人として呼ばれた際の配布資料にも、鯰の絵が載っている事につながってきました。これは、3・11フクシマの2ヶ月後、「どじょう内閣」発足の数カ月前ですからウナギしか出てきませんが、国会議員さんに(本当は国民に)少しでも分かり易くとのことだったのでしょう。こちらの絵は、当時、新聞やテレビは報じたのでしょうか?

    ところで、フォーラム会場に戻りますと、国立医薬品食品衛生研究所の蜂須賀暁子氏が「食品中の放射能性物質の測定法」と題して発表中です。この頃、しょっちゅう聞くようになった組織IAEA(International Atomic Energy Agency:国際原子力機関)が2007年に提唱した放射線防護シンボルを紹介されました。みなさんは、この真っ赤なおどろおどろしいシンボルマークをご存知でしたか? 私は初めて目にしましたし、会場にいる多くの研究者の反応も同様でしたから、一般には知られていませんね。通常われわれが目にする、黄色の三つ葉マークに比べてインパクトの違いは歴然としています。これまでは、こういう標識の存在自体を紹介すること自体がなんとなくはばかられる「空気」があったのでしょうが、今となっては、小学生はおろか、幼児にも、目に見えない放射線の存在を知ってもらうひとつの方法として参考になるかもしれません。

   会場では、他にも、旬なトピックとして、放射線医学総合研究所 柿沼志津子氏による「低線量放射線の発がん影響」という講演もありました。彼女によれば、高校などでも教育啓蒙活動を行っているそうで、寺田寅彦の名言とされる「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい。(1935年) 」を引用しつつ、様々なリスク要因との比較の中で、寿命短縮の中でもっとも大きな要因は、独身男性で、次にタバコ、肥満と続けて、医療用や自然放射線の影響は少ない図表を引用していました。放射線を「正当に」こわがれという意味なのでしょうが、そこに引用された図表の出所は1979年のアメリカの学者の発表のようです。まさにスリーマイル事故の発生した、その年、もちろん、チェルノブイリの大事故(1986年)のはるか前の時期のものです。これをどう受け止めるか、時代背景も十分に考えたうえで、「正当に」評価すべきものでしょう。この図表を探してみましたら、同じものが原子力安全委員会HPの中にありました。以下のPDFの4ページ目です。(※現在は表示されません)

 ナマズに脳髄を揺さぶられたせいでしょうか。家に帰って、就寝前の睡眠薬がわりに読もうと、書棚からふと取り出した、「古い」新書に「ナマズとイワシ」という一文が飛び込んできて、偶然の一致にしてはできすぎた気がしますが、最後に部分引用して終わりにします。「北欧では、イワシ漁のとき、港に運ぶまでにほとんど死んでしまう。たまたま、一度だけ生き残った船を調べてみたら、イワシの中にナマズがはいっていた。イワシは見慣れないナマズがいるせいで緊張するためか、港まで生きたまま運んでこられる。日本人も、自分たちに緊張を要するような異質な存在をもっと取り入れていく必要があるのではないか。」(岩波ジュニア新書205 佐高信 著 豊かさのかげに―「会社国家」ニッポン― (1992年刊)182-183ページより)。この話は、ミサワホーム社長の談話から取ったものだそうで、ネットで調べてみると、最近でも、あちこちに引用されており、実際はフィクションではないかともいわれております。水産業界のかた、何かご存知ですか?

   魚偏に念ずる鯰と魚偏に弱い鰯(イワシ)に泥鰌を捻りあわせて、分子「鯰鰌鰯」学としてみました。皆さんは、どうか強くお元気で、次回、また会える日を念じて。

(西海岸。)
2011年11月掲載

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