「また、西海岸。の風に吹かれて」 第20回

第20回 分子「二重」学  <2010年3月>

  みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西日本の西海岸地方に住む一地方大学教員です。今回は、シリーズ20回を記念して、にじゅうの意味をこめて分子「二重」学としました。分子生物学関係者ならば、二重といえば、ワトソン・クリックの「二重らせん」のお話かと思うでしょうが、その「らせん」をキーワードとして、ふと思い出したことがあります。21年前に水城雄という、当時は、「羽二重」の産地として有名だった福井県は勝山市に在住の若い小説家の取材を受けて、螺旋都市」(1989年中央公論新社刊)という小説のモチーフに使われたアイデアを与えたことがあります。「細胞複製制御酵素、すなわち不老不死関連酵素を発見した」研究者を主人公としていました。細胞の老化に関するテロメアとテロメラーゼで、ノーベル賞が出たのが昨年2009年ですから、細胞の老化制御遺伝子の問題を導入に用いた小説は、当時としては結構時代の先端を行っていたのかもしれません。

  さて、本稿は冬のバンクーバーオリンピックの最終日に書いていますが、真央対ヨナの対決で、ずいぶんと騒ぎました。メディアは、二人の年齢や家族構成など何かと似ていると報じていましたが、私には二人の名前の響きが欧米人には、どう受け取られていたか、気になりました。欧米では、末尾がオ(0)で終わると男の名前、ア(A)で終わると女の名前という場合が多いそうです。大女優や小説のヒロイン名でも思い浮かべてもらえば納得ですね。ジュリア・ロバーツ、ソフィア・ローレン、アンナ・カレーニナ・・・。

  20年前アメリカに家族同伴で行くまで気にもしていませんでしたが、私の世代の女性名によくある○○子は、日本人なら、耳で聞いただけで、女性とわかるのですが、Oで終わりますので、欧米では男子名と誤解されがちです。事実、○○子である家内と連名で送られてくる郵便物では、夫たる私にアメリカでは、Ms.と書かれ、その後住んだドイツでは、Frauと書かれること稀ではありませんでしたから。その意味ではYu-Na Kimさんは、Mao Asadaさんより語感でも会場の雰囲気作りに違和感なく優位に立っていたのかも。さらにバイオ風にこじつければ、MAOというと、Monoamine oxidase inhibitor(モノアミン酸化酵素阻害剤)を、ASAと言えば、 Aminosalicylic Acid(アミノサリチル酸)を、最後のDAはDopamine(ドーパミン)を思い起こす人もいるかもしれませんが、これ以上の二重薬効に跳びすぎ発想ジャンプは、プロにまかせておきましょう。

  ところで、junやsatoriなど日本語由来の遺伝子名という話題を、このシリーズの中で何度か紹介しましたが、日本人名由来の酵素・遺伝子の新しい例を最近知りました。Activation-Induced Cytidine Deaminaseという酵素は、京都大学特任教授の本庶佑先生によってクローニングされ、AIDと呼ばれますが、これは先生の佑(たすく)という名前由来なんだそうです。根拠資料を探してみましたら、5年前の京都大学医学部本庶教授最終講義にて、ご本人が話しておられましたから間違いないですね。年度末は、どの大学でも恒例行事として定年退職される教授の最終講義がありますが、学会などとは、また違って、研究生活集大成の裏話なども聞けて楽しいものです。ただし、土曜や日曜に最終講義される先生も結構おられて聴講しにくいのです。講義後には研究室の出身者などとパーティーを企画されることもあり、その都合もあるのでしょうが残念です。でも、最近は、最終講義を動画で公開している例もあるようで、それはそれで、良い傾向でしょう。受験生向けにオープンスクールを開き、模擬講義などを行うのは、最近はほとんどの大学で行われているようですが、「開かれた大学」を標榜している大学の、定年退職教授最終講義公開率を調べてみる方はいませんか? 私の勤務先でもスケジュールを学内では公開していますが、大学HPにはほとんど出ませんね。その代わり、最終講義をネタにした定期試験問題があることがひょんなことでわかりました。学生さんも最後までうかうかしていられません。

  教育・研究に継ぐ三本柱として社会貢献を謳う大学は多いのですが、在職中に限らず、退職された後の教授の知識と知恵を社会の中で伝承していただくことも、大事な社会貢献です。むしろ、在職中は、やはり、教育と研究が本分ですから、社会貢献まで等分の寄与と言う訳にはいかないのが、ほとんどの教員の本音ですし、社会もそこまでは求めていないでしょう。それよりも、定年まで待たずに民間と人事交流する例がもっと出てきてもよいと思います。前回紹介した新薬ひとつに1,000億円!?(朝日新聞出版)という本の中には、米国では、NIHや有力大学から、ノーベル賞級の学者が大手から中堅の製薬会社に移り、また学界に戻る例が多々紹介されています。必ずしも異文化そのものの企業文化の中でうまくいった例ばかりではなく、その点は、厳しく書かれているのですが、それでも、人材の流動性のある社会とない社会では、やはり活力が違うでしょう。もっとも欧米では、企研究所の幹部クラスは最初から博士号取得者の採用が前提となっており、学卒や修士を採用してから育てる日本との違いにも留意しないといけないのは当然です。

 つい先日、ある大手医療機器メーカーの幹部の講演を聞く機会がありました。その方いわく医療機器の開発には、医工連携が必須であるが、まだまだお医者さんの立場が強く、お医者さんにお伺いをたてつつ開発をすることが多い。聴衆の中には、ドイツやアメリカから日本に参入しようとする医療機器メーカーの方もいたので、日本の特異性として、小説・テレビで有名な白い巨塔(新潮社)を引き合いに出していました。産学官連携が盛んに謳われ他業種に比べれば不況に強いということで、農商工連携、医商工連携など新規参入の動きも多いが、もともと士農工商の風土の中では、工は、いずれにしても後のほうにおかれる悲哀を語っていたのが印象的でした。ちなみに、産学官連携という言葉と産官学連携という言葉があります。学と官をどちらを先に持ってくるかで、微妙なニュアンスの違いがあります。先ほど、「定年退職」と書きましたが、大学によっては、「定年退官」と称しているところが見受けられます。国立大学が、国立大学法人となって数年経過し、国立大学「教職員」は、もはや公務員でないのですが、いまだに、教「官」を自称している人がいます。給与の大部分が、税金から来ているのですから、「官」の意識が抜け切れないのでしょうし、幹部職員異動はいまだに、文部科学省のコントロール下にあることが、「二重」構造の意識から抜け出しにくい原因なのかもしれません。では、また会いましょう。

(西海岸。)
2010年3月掲載

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