「続々:西海岸。の風に吹かれて」 第17回

第17回 分子「交代」学  <2009年9月>

 みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西海岸というとアメリカと思いがちですが、陽光輝くカリフォルニアにて一時過ごしたのは、はるか昔の事で、現在は日本の西海岸在住の某大学教員のペンネームです・・・。 

  さて、分子「**」学のシリーズで続けてきたエッセイですが、今回は分子「交代」学です。一応、バイオからみの話題を続けてきていますから、分子「抗体」学の変換ミスと思った方、半分は?政界ですというか正解ですという、この夏のような寒いダジャレ。

  という訳で、「政権交代」をかけた総選挙がありましたが、政治家の選挙演説の常套句が「命を賭けて」です。それを真に受ける人はいないでしょうが、簡単に「命を賭ける」人は、そもそも他人の命の重みも軽視していると思っています。政治家の代わりはいくらでもいるのですから、そこまで捧げてくれなくて結構と冷ややかに見ています。

  本稿を書いているのは投票日の前日なのですが、「西海岸。」は、「東海岸(これも日本国内)」までの出張予定もあり、地震は頻発するは、緊急地震速報の誤報もあるはで、帰国!できないかもの杞憂が先に立ち、1週間前に期日前投票を済ませてきました。新型インフルエンザ騒ぎで、これだけ、人混みへの外出を避けましょうと呼びかけているのに、投票日までじっと待って、混雑が当たり前の投票所に行くこと自体が、それこそ「命懸け」なのです。少なくとも、平日、自由な時間のあるお年寄りには、「健康のためにも、少々遠くまで歩いてでも、期日前投票を済ませましょう。」と呼びかけるのが、厚生労働省あるいはマスコミの仕事だったのではないでしょうか? 投票所で理由を書く必要はありますが、旅行予定とでもしておけば、追求はされませんし。

 前置きが長くなりました。出張帰りの新幹線車内でうとうととしていると、近くの座席からの会話が聞くともなしに耳にはいってきました。

A:新型インフルエンザこわいなあ。ワクチンは輸入しても足らないそうで、われわれ中年の男性にはメタボというだけでは、接種の順番はすぐには回ってきそうもないし。

B:政権交代で国の医療政策が、大転換したりすると、混乱に乗じて、怪しいことが起こりうる。どこかで読んだ話だが、新型インフルエンザワクチン接種後の廃棄注射針を、ひそかに回収する新手の「リサイクル」業者が出てくるかもしれないそうだ。

A:注射針から、ワクチンの残薬でも搾り取って、インターネットででも売るのかい。覚せい剤騒ぎで、やりにくくなった商売の手口を変えるのか。そりゃひどい話だね。

B:いや、さすがにそんな無茶なことはしない。もう少し巧妙で、見かけは科学的な衣を被せた話だ。インフルエンザワクチンは、抗体検査をしてから接種するわけではないので、被接種者の中には、気がつかないうちに感染治癒してしまって抗体を持っている人も一定割合では存在する。そういう人のうち何万人に一人くらいは、極端に免疫力が強く少々変異したウイルスでも捕捉できるマスターキーみたいなものすごいスーパー抗体を持っているかもしれない。そうした抗体産生Bリンパ球を含む微量の血液が付着した注射針を回収して、その丸ごと洗浄液から抗体遺伝子を増幅させ、抗インフルエンザ抗体遺伝子断片を検出することは、現在の
技術では可能らしい。あとは、ランダムに人工的に変異させた
ウイルスプールとも結合活性を落とさないスーパー抗体をスクリーニングするだけだ。「そこからスーパー抗体医薬を作ります、おまけに医療廃棄物処理費用も節約できます。」とか言って、全国の病院の赤字に悩んでいる事務長さんを煙に巻いて回収する。

A:そうか、今回は、少なくとも1,000〜2,000万人レベルで接種が行われるから、廃棄物とはいえ、短期間に、それだけの数の副次産物として血液付着サンプルが出てくるということは、大量のサンプルを一気に求める人にはチャンスなのかもしれない。採血ではないし、むしろ、サンプル量に比べて検体数が飛躍的に集まり抗体陽性サンプルのバラエティも高まるという机上の論理は成り立ちそうだね。感染リスクが高い医療関係者から採血して、抗体遺伝子ライブラリーを作成するという話は聞いたことがある。ただし、その場合はインフォームドコンセントをしっかりとってのことだし、数は稼げない。でも、今回の話は、どうもあやしいね。

B:そうだ。そもそも、インフルエンザのような急性感染症に、抗体医薬のコンセプトは、コストが見合うとも思えないし、裏に隠れた真の意図を疑わないといけない。

A:パソコンやテレビなど、家電を廃棄する場合には、リサイクル料金を払わないといけないけど、時々、無料で回収するという業者が巡回してくる。どうして無料で引き取ってくれるのか聞いてみると、そのまま、東南アジアなどに輸出して、そちらでリサイクルするので、リサイクル法の網がかからず、利益は出せるというのだ。

B:そうだ。そしてパソコンの場合は、データが消しきれないから表に出なくて流出しているものは多い。今回の場合も、実は、インフルエンザはただの口実で、本当にほしいのは、日本人のメタゲノムデータ解析用のサンプルで、いったん国外に持ち出してしまい、一気に解析し、主導権をとろうという某国研究機関の意図が見え隠れする。

A:それを防ぐためには、新政権は、先回りして、その注射針を国家レベルで回収する必要があるか。どうせ、予算の大幅組み替えは必要だし、政権交代で、日本がすべてのシステムを交代しようとしている時期だ。大急ぎで、新しい予算要求用のネタがほしい官僚に「交代」で「抗体」ってスローガンで、すり寄ろうという学者だって出てきてもおかしくない。新政権だって、科学分野で、「国を守れます」と言っておけば「新野党」からの攻撃にも対抗できるとか言ってね。

B:まさか、そんな「西海岸。」にでも書いてあるような話を真に受けるわけはないだろう。

***

  ふと気がつくと、列車に揺られていつのまにか寝ていました。さっきの会話をしていたビジネスマン二人は、すでに下車したのかどこにも見当たりません。さて、この会話は、彼らの話だったのか、夢の中のものだったのか、わからなくなってしまいました。夏も過ぎ、すっかり秋風が吹いてきました。では、また、お会いしましょう。

(西海岸。)
2009年9月掲載

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