「西海岸。の昭和!実験奮闘記」(続西海岸。の風に吹かれて) 第10回

第10回 分子「奔躍」学  <2008年7月>

  みなさん、こんにちは。「西海岸。」です。西海岸在住の某大学教員の仮の名前。といっても、アメリカではなく日本の西海岸ですが・・・。 今回は分子「奔躍(ホンヤク)」学です。前回はスティーブ・ジョブス氏のスタンフォード大学卒業式での動画スピーチ(日本語字幕つき)(※現在は表示していません)を紹介したのですが、初回からの熱心な読者の御令嬢に伝達され、直後に大学の語学の授業で使われて、予期せずして予習になったとの情報が寄せられました。遅ればせながら、愚息(とか豚児とか使うと、最近は言葉による児童虐待という御仁もいるらしいけど)にも教えてやりましょうか。彼はスタンフォード大学近くに住んでいた頃があるので、「帰国」子女に違いはないのですが、いかんせん、やっと歩き出してすぐの二歳前には帰国したので、何の記憶も自覚も持ち合わせずに、語学力もNative並み(もちろんJapaneseとしての・・・というジョークをある語学講座で耳にしました)です。

 さて、昨年末に、この連載で故アーサー・コーンバーグ先生の最後の著書”Germ Stories”発行のお知らせをしましたが、このたび、その翻訳がミクロの世界の仲間たち―微生物のふしぎなおはなしという題名で発行されました。原著は手元にありますが、実は、まだ、この訳書の現物を手にしていません。広告でイラストを見る限り、表紙カバーは、原著のものとは異なり、原著の目次ページの挿絵を利用しているようですが、そのほうが見栄えはよくなっています。来週には、ある展示会の直売所で入手予定です。原著者は故人となったので、もはや直筆サインは、もらえませんが、翻訳者の宮島郁子さんとは、ほんの一時期、「西海岸」で実験台を並べて仕事をしたことがありますので、その縁で、いつかはぜひとも記念サインをねだりたいものです。

  ところで、偶然なのですが、コーンバーグ先生の自伝的著書「それは失敗から始まった」の翻訳者である正井久雄先生の科研費特定研究費グループのニュースレター「染色体サイクル」の第5号にもコーンバーグ先生の追悼文がいくつか載っているのを知りました。その中に、やはりコーンバーグ研に留学されたことのある名古屋大学の小川徹先生が50mCiもの標識ヌクレオチドを用いたRNAプライマー解析実験を一滴の汚染もなくやり遂げてコーンバーグ先生も感心したとのエピソードが載っています。昔なら、こういうものは内輪の関係者だけで配布されて誰も読まずに終わったはずですから、あらためて、ネット環境は、便利なものだと。
 
 それは、ともかく、「実験奮闘記」。私など、昔々、フタムカシほど前、留学中に初めて35Sメチオニンで培養細胞を標識して免疫沈降実験をした際に、恥ずかしながら、この標識アミノ酸が揮発する事を知らず、培養ディッシュを活性炭フィルター入り密閉ボックスにいれずに、開放系のままCO2インキュベータに入れてしまい、内部を若干汚染してしまったことがありました。汚染レベルは低く、除染はすぐできましたが、その頃、同じ実験室に出入りしていて、親切にも、その汚染を私に指摘してくれたのは、インターロイキンXを発見しクローニングした直後のKM博士で、その発見は研究所あげてのプロジェクトになっていましたから、これが、クローニング成功の直前だったら、実験妨害の廉で永久追放だったかもしれません。

 その後、研究費のないところに帰国してからも、資源節約という名目で、細胞培養ディッシュ洗浄後、エチレンオキサイドガス滅菌で再使用したところ、吸着していて抜け切らなかった残留ガスで、同僚の細胞まで死なせてしまったなど、どうも揮発性ガスとは相性がよくないようです。コーンバーグ先生だったならば、失敗は成功のもとで、必ずやよい仕事に結びつくものですが、そこが凡研究者の凡たる由縁です。
ガスといえば、今は、二酸化炭素が、かなりの悪人(悪ガス?)になってしまっています。私はあまり呑むほうではないですが、暑いときのビールは旨いと思うし、炭酸ガスいりミネラルウオーターもかなり好きなほうですから、間違っても炭酸飲料禁止令などというものが、できませんようにと願っています。ところで、今回の、「奔躍」学は、「翻訳」のもじりで、まるでシャンパンのように開栓とともに、「奔流し、はじける泡が舌の上で跳躍」する様を表す造語のつもりで、ここでこじつけましたが、念のため、ググってみたら、出るは出るは、ちゃんと漢詩に使われているのですね。浅学を披露してしまうところでした。

   ガス対策としては、私自身、毎日往復100マイル(「西海岸。」キドリの換算距離!)を4時間近くかけて、北上南下しつつ自家用車通勤していますので、さすがに気が引けて地球温暖化防止のためなどと高尚なことはいわず、ただただガソリン代高騰に耐えかねて、省燃費車(ハイブリッドなど高値の花、なんのことはないただの軽自動車)を配偶者と交換してのエコドライブをせいぜい心がけてはいます。ただし、まだまだ不思議に思うのは、御当地、日本版「西海岸」には、高速道並の高規格「無料」自動車専用道があるのですが、田舎でほとんど渋滞のないせいか、制限速度をきちっと守って走りますと、いわゆる「交通の流れ」を乱すことになり、必ず大多数の車には追い抜かれること。さらに、高速バスに乗れば、制限速度を守ったら絶対に間に合わないはずの運行ダイヤで、ちゃんと目的地に着くこと。。。

   夏です。サマータイムなるものの導入を画策している政治家や官僚がいるようです。米国でもヨーロッパでもしばらく住んでいた時に、夏というよりまだ初春のうちにいきなり、1時間時計を進め、冬場にまた元に戻すということを何度か経験しましたが、あまりよい制度とも思いませんでした。始業時刻も早まりますから、たとえ一時間とはいえ、いきなり、早起きをしないといけないのは、体調もくずしますし、といいながら、この原稿書きに今朝は二時間早起きして自主サマータイム倍増を実践した(西海岸。)でした。

(西海岸。)
2008年7月掲載

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