「アメリカ東海岸留学日記」 第22回


 

> 2010年 10月 31日  「インド旅行」 

   もらっているフェローシップの年一度のミーティングが南インドであるというので初めてのインド旅行に行ってきました。せっかく遥々と行くので、ミーティングが始まる前に、一週間ほど何人かで南インドを旅行することにしました。

   アメリカの東海岸からアラビア海に面したインドの西側、ケララ地方まで23時間の長時間フライトです。途中、ワシントンDCとドバイで乗り換えました。ドバイでは空港で数時間過ごしただけでしたが、今まで私が見た中で最もきらびやかな空港でした。空港ロビーにはDuty Freeのショップが連立し、高そうな車が飾られ、電飾や電子モニターがそこここでピカピと光り、空港の掛け時計は全てロレックス、という具合です。夜に到着したにもかかわらず、空港の中はまったく昼間のような様相でした。サービスも良く、インターネットは無料で、待合室の椅子もリクライニングでき、シャワー室やゲーム室まで完備してありました。アラブの裕福な空気をそこここに感じながら、快適にインドへの乗継便を待つことができました。
 

   ドバイから目的地であるケララ地方の空港、トリバンドラムまで3−4時間です。興味深いのは、数人を除いてほとんどの乗客がインド人だったことです。どうやら、ドバイは南インドから安い労働力を手に入れているようです。実際、ケララでの平均年収は10万円ほどと低く、空港に着いて最初に驚いたのは、街の貧困さでした。建物は今にも崩れそうな物が多く、人々の服もボロボロで、裸足で歩く人々も多くみられます。下水は排水溝に垂れ流しで、動物の糞は道端に普通に転がっていて、ひどい場合は動物の死体が転がっていることもあります。そのため、町中どこに行ってもひどい匂いが漂います。道路も整備されていないところが多く、砂埃が舞い上がり、ほとんど歩道のないところを三輪バイクがクラクションを鳴らしまくりながら走り回るので、騒音と排気ガスを真正面から浴びるハメになります。牛はヒンズー教ではシバ神が乗る聖なる動物と考えられているので、町中に放し飼いになっている牛も多くいます。街にはゴミ箱がなく、人々はゴミを道端に投げ捨てます。そのため、街はゴミの山となっています。そして聖なる牛や野良犬•野良猫がそれらのゴミの山をあさる様子が頻繁に目に入ります。

   街に出た瞬間から、匂いと騒音と暑さと湿気、そして人ごみに圧倒されます。北インドのデリーやムンバイなどの大都市ではこれに拍車がかかるというので、私には想像もつきません。日本やアメリカの静かで整然とした町並みやフレッシュな空気に慣れていた私には衝撃です。アメリカではインド出身の研究者や医者も多いので、私の中ではそこまで発展途上国という意識がなく、このように違う世界が待っているとは思いませんでした。
 

   旅の2日目からはインド人の友人が彼の出身地を案内してくれるということで、トリバンドラムから北西に車で5時間ほどいったところにあるマドレイを訪れました。外国人だけでは英語も通じず、買い物では2倍以上の値段をふっかけられることもしばしばです。といっても、物価が安いので日本人にとってはふっかけられた値段でも安く感じてしまいます。例えば、普通のレストランでお腹いっぱいになるランチを頼んでも、1人200円以内で済んでしまいます。ただ、インド人の食べる食事は、朝ご飯からスイーツまで全てに何かしらのスパイスが加えられており、しかも揚げ物であることが多いようです。また、インド人の「辛くない」はかなり辛いことにも気づきました。もともと辛い物やオイリーな物が苦手な私は、数日たつとインド料理が全く食べられなくなってしまいました。結局、ご飯やドーサ(クレープのようなもの)などの主食をおかずであるカレーソースをつけずに食べたり、ポテトチップスやクッキーで飢えをしのぐことになってしまいました。インドでは生水はもちろん、フレッシュな物は食べないようにとガイドブックに書いてあり、スナックで飢えをしのぐ日々はなかなか辛いものでした。

   インド人の友人は普通のインド人の生活を体験させようと気を使ったようで、食べ物のみならず移動手段も普通の電車や路線バス、三輪バイクのタクシーなどを使った旅程を組んでくれました。しかし私を含め、一緒に旅した外国人の誰もが根を上げてしまいました。日本やアメリカで普通に手に入るレベルの清潔で安心なサービスは、インドでは現地の人が到底泊まれないような高級ホテルに泊まったり、リゾートに行ったりしなければ手に入らないようです。ただ、インドの人々はそのような貧しい生活を気にする様子もなく、姿勢よく、笑顔を絶やしません。お寺などの歴史ある建造物もすばらしく、街は常に活気に溢れ、この国と人々には不思議な魅力があると思いました。
 

   ミーティングの会場は、打って変わって完全にウェスタナイズされたリゾート、コバラムで開かれました。ガイドブックによれば、実は南インドのケララ地方はインドで最も識字率が高く、ヨーロッパの香りを感じさせる上品な場所とのことです。最初の一週間、町中を歩く限りはこの意味が全く理解できませんでしたが、コバラムに到着して、やっと分かりました。道は整備され、ゴミはなく、きれいな車が道を走り、空気はきれいで、豪華な家やホテルが林立しています。最初の一週間とのギャップがあまりにも大きく、「ここはインドではない!」と一緒に旅した仲間と言い合ったほどです。

   4つ星ホテルと5つ星ホテルに宿泊しましたが、このようなホテルでも一泊5000円ほどです。もちろん、最上級に近い設備とサービスを備えています。宿泊客は、エアライン会社のクルーや、ヨーロッパ人、特にインドはイギリスの植民地だったことからイギリス人が多く、反対に現地人を見ることは稀でした。ミーティング関係者以外、アジア人を見ることもなく、レストランのウェイターさんによれば、日本人が来ることは滅多にないそうです。

   時間があったので、1泊かけてホテルの提携するハウスボートのツアーに行くことにしました。友人と3人で2ベッドルームのボートを貸し切り、1泊かけて運河を巡るというものです。食事を作るコックも同乗するので、ゲストは船の上でのんびりするだけという、とにかく豪華な遊びです。日本やアメリカでは何十万円かしてしまいそうなこの遊びも、ここインドでは全てを含めて一人1万円以下で済んでしまいました。現地の人々の貧しさを見た後だっただけに、この外国人向けの遊びをすることに少々のためらいはありましたが、ボートから見る景色は、言葉にできないほど美しいものでした。

   インドは自然の豊かな美しい国だと思います。食事はスパイシーでも美味しく、人々は朗らかで、お寺などの古い建造物はすばらしく、魅力溢れる国です。ゴミの問題や上水/下水システムを改善すれば、どっと観光客が押し寄せるのではないかと思いました。
 

(コンドン)
2010年11月掲載

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