「アメリカ東海岸留学日記」 第19回



 

> 2010年 4月 28日  「ワシントンDC訪問」 

   先日、NIH(National Institutes of Health)に勤務する友人を訪ねてワシントンDCに行って参りました。ワシントンを訪問するのは初めてだったのですが、街の作りや雰囲気が東京の都心に似ていて驚きました。クラッシックで大きな石造りの建物が立ち並ぶかと思うと、都会的なデザインの高層ビルが立ち並んでいたりもします。ボストンのように小さく古い店が所狭しと立ち並ぶのとは異なり、大きく新しいビルに複数の店舗が整然と入っています。道路は整備され、ストリートは掃除が行き届いており、清潔で整頓された日本の官公庁、ビジネス街を思い起こさせます。街行く人々も、T−シャツ、ジーンズ姿、あるいは反対にドレス姿の多いボストン周辺とは異なり、スーツなどのよりフォーマルな格好の人々が目立ち、この点からも日本の人々のファッションに近いように感じました 。といっても、全体的に道幅は東京よりも広いですし、立ち並ぶ建物の規模も大きく、そしてなんといっても人が少ないため歩くには快適で、その点は異なります。
 

  初日は観光名所であるスミソニアン博物館とホワイトハウスの見学に行って参りました。スミソニアンは、科学や芸術、産業、自然史などの複数の博物館を総称したものです。入館料はどの博物館も無料です。ただ、一つ一つがとにかく広いため、全てを一日で回るのは体の方が持ちません。そこで今回は、最も人気の高い博物館の中で2つ、アメリカ歴史博物館と自然史博物館に行ってみました。

 アメリカ歴史博物館は、歴史の浅いアメリカについて何をそんなに飾る物があるのだろうか、と思うかもしれません。でも、浅いからこそルーツを確かめたくなるのか、アメリカ人には最も人気のある博物館と言ってもよいそうです。ハイライトは、米英戦争(第2次独立戦争)時に作られた巨大な星条旗の展示、及び国歌の誕生の過程でしょうか。当時星条旗を縫った女性まで讃えられていて、外国人としては面白い趣向だと思ってしまいます。でも、アメリカの人々にとっては最も感動的な場面の一つのようです。
 

   他にも面白い趣向といえば、大統領夫人、ファースト・レディに関するコーナーです。歴代大統領夫人の紹介と、就任式で着用したドレスの数々が展示してありました。私は知らなかったのですが、着任式などの正式な場でのドレスや身の回りの物はどうも国から賄われるようです。奥さま達は、夫が大統領に就任すると自動的に公人になり、博物館入りしてしまうということのようです。ファースト・レディというのはまさにシンデレラであり、アメリカの大統領というのは本当に王様に近く、その大きな権力をこのようなところでも実感します。

   他にもアメリカの家の歴史やファッションなども展示してありましたが、歴史を感じることが難しいくらいに現代的な展示物ばかりでした。これまで 歴史博物館=想像もつかないくらいに古い展示物が物々しく置いてある、というのが私の概念でした。日本やヨーロッパの歴史博物館では、その国の成り立ちを、重要文化財と共に時系列で追って行くのが普通です。しかし現代にフォーカスした(するしかなかった?)このアメリカ歴史博物館では、過去よりむしろこの国の現在を知ることができます。また、展示の手法も、照明や背景が凝っており、映画のセットのようにブースごとにストーリー性を持たせた展開となっています。荘厳な歴史を感じることはありませんが、外国人や子供達にも理解しやすい展示になっていて、楽しむことができました 。
 

  展示の趣向については、そのあと訪れた自然史博物館についても同じことが言えます。日本の国立博物館ではおよそ見ることがないようなポーズをとった動物の剥製やレプリカ達がいます。クマやトラはまるで怪獣のようなポーズで私たちに襲いかかっていますし、原始人は柵を越えたところにも生き生きと展示してあり、写真を一緒に取ることもできます。また各所、目立たないところにまで、こまごまとした仕掛けや工夫がこらしてあり、思わず秘密の展示やトリックを探してしまいます。この国はやはり、ハリウッドやディズニーを始めとした、エンターテインメントの国なのかもしれません。

  さて、2日目は、友人の働くNIH(写真)を少しだけ見学させてもらいました。NIHはアメリカで最も大きな国立研究機関の一つです。日本の理化学研究所のようにそれ自身が研究室と大規模な研究施設、研究費を持ちますが、それと同時に日本学術振興会のように様々な研究グラントをアメリカ全土の研究機関へ配布する役割も担っています。ライフサイエンス分野ではもっとも大きなグラントを提供する機関です。研究系大学のテニュアトラックでは、通常NIHのRO-1グラントを最低一つ取ることが、テニュアに合格するための基準の一つと言われているほどです。
 

   そのため、誰もがNIHではトップサイエンスを最新設備と効率的なシステムの元でバリバリやっていると期待します。しかしそこで実際に働く友人によれば、実は国立機関であることの様々な弊害を伴っているそうです。物品の注文など、事務系の仕事は何枚もの書類と人間を通してやっとオーダーされますし、事務の人々は公務員のためか不親切で怠慢な人が多いそうです。また、国立機関ですから、ベンダーを含めた企業との接触や建物内でのパーティーなども禁じられています。パソコンを含めた仕事上の用具は全て支給されますが、パソコンの内容も監視されているとのことでした。さらに、銀行もNIH銀行があり、NIHで勤務する人々の給料はNIH銀行のアカウントに振り込まれるという徹底ぶりです。9時—5時の仕事とは行かない研究者としては、様々なことが役人向けのルールで決められおり、かなり不便と言わざるを得ません。

 しかし一方で、研究費は余る程にあるそうです。フラスコや培養プレート、ゲルなど、ありとあらゆる物を使い捨てや出来合いの物を購入して実験を行うのだそうです。また大学院生でも専属のテクニシャンが付くことも珍しくないようです。事務的な問題を除けば、効率的に仕事を行うにははやりよい場所なのかもしれません。
 
  アメリカはボストンとカリフォルニアでも別の国のように違うと思いましたが、ワシントンもまた特徴的な都市だと思いました。首都らしく様々な試みを行っていたりもします。一つは人種差別を撤廃するために、黒人の人々を積極的に雇用していることです。町中やNIHなどの研究機関でも、事務やウェイトレスなどに黒人の方々が従事しているのをよく見ます。また、1ドルコインの使用を呼びかけています。“Use one dollar”というポスターが各駅構内に貼ってあります。おつりが1ドルコインで来ることもありますし、道端のマイナーな自動販売機でさえ1ドルコインを使用することができます。首都としての努力の過程が伺い知れます。いつも思うことではありますが、アメリカはUnited States(州の集合体)であり、州ごとに街の作りも人々の様子も本当に異なるのだな、と今回再び認識しました。
 

(コンドン)
2010年5月掲載

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