「アメリカ東海岸留学日記」 第3回


 

> 2007年 8月 21日   「アメリカの実験事情」

 今年の4月に渡米して早4ヶ月、やっと実験室の物の場所も分かるように
なり、実験も軌道に乗ってきました。渡米する前は、生活面での文化の違いば
かりを心配していましたが、実はラボワークに慣れるのも結構大変です。慣れ
てしまえばどうということはないのでしょう、留学経験者は誰もこんな苦労話聞
かせてくれませんでしたが、こちらに来て改めて聞いてみると、実はみなさん初
めは結構苦労していたようです。未だラボメイトとも慣れず、言葉にも自信が無
い中、実験まで上手くいかないと結構ストレスが溜まります。国内でも各ラボの
カルチャーの違いはありますが、これまで複数の国内ラボで研究したことのあ
る私は、ラボ文化への適応力にはひそかに自信がありました。また、サイエンスは世界共通だという意識があったので、こちらに来て、いかに日本製の器具や、国内ラボの共通文化の中で生きていたかを知ることになりました。
 

  もちろん、新しい分野に挑戦した場合など、受け入れ先のメソッドに完全
にのって実験する場合は、カルチャーショックに苦しむことはあまりないかも
しれません。私の場合は、所属するラボが国内にいた頃と同じ分野のため、
学部生のように一から習う訳にもいかず…というわけで、お初の器具や試薬を
眺めて、自分でやってみるしかないという状況に。もちろん、大本の原理は同じ
なので、一つ一つこなして行けば良いことなのですが、何が大変かというと、
慣れない器具と試薬に囲まれて、一から説明書を読んで実験しないといけない
ことです。これまでほぼ無意識のようにできていたルーティンワークでさえも初
心者のように緊張せねばならないこともしばしば…。面倒くさがり屋の私は、あんまり上手くいかないと、たまにこっそり日本製の試薬を取り寄せてしまったりもします。

  これまで一番情けなかった経験は、電気泳動槽とゲルの作り方を同僚のポスドクに聞いたことでしょうか。彼は一瞬沈黙していましたが、「色々違うんです」と弁解すると、親切に教えてもらうことができました。こんなことを聞いたポスドクが世界で私独りでないことを祈ります…。私は日本ではプラスチック製のコンパクトな物しか使ったことがなかったので、まず、こちらのむやみに大きい泳動槽とゲルメーカーにびっくり。ちょっとした泳動にも大量のゲルとTAEが必要になりますし、うっかりゲルメーカーを落とすと重さで割れてしまったりもします。今は慣れましたが、最初はそのずっしりとした重さに高級感(?)と不便さを感じたものです。
 

  こちらの器具や機械は、大雑把に言えば、何でもゴツくて立派に見えます
が、意外ともろかったり性能が低かったりします。しかし、製氷機や現像機器など、電気機器については、実はこちらでも日本製のものを結構見かけます。
日本車が人気なように、日本製の電気機器もなかなか人気のようです。一方
で、ラボ単位の実験器具や試薬となると、アメリカ製の物が急に増えます。
大学で提携しているメーカーから買うと輸送費がタダだったり、ディスカウントを
受けることができるからのようです。こちらでは輸送費は馬鹿になりません。
東から西、北から南に、それぞれ特急航空便だと小さな段ボール1個で$120
くらいになります。場合によっては購入商品と輸送費が同額ということもあります。

  あと実験器具について驚いたのは、こちらの人は何年落ちというような古い型落ち器具をボロボロになるまで、いや、ボロボロになっても使うことです。私の所属する大学やラボは全米でも比較的裕福なハズです。しかし、ボスの倹約性格も手伝ってか、私のラボでは96wellプレートがはまるサーマルサイクラーどころか、200μlチューブがはまるラックもなく、そのため500μlチューブでPCRをしなければなりません。大量のサンプルがあるときは、とても非効率的です。しかし、まだ動くので買い直す気はない、というのがボスの意見のようです。グラントのシステムにも違いがあるのかもしれませんが、こちらでは人(ポスドク、テクニシャンなど)にお金をかけても、物にはあまりお金をかけないようです。日本はポスドクのいないラボも多いですが、新しいテクノロジーには敏感な研究者が多いように思います。今思えば、ピカピカの道具たちに囲まれていたなぁ、と懐かしく思い出す日々です。
 

  それでもこちらの良い点は分業が進んでいることでしょうか。洗い物を自分ですることはまずありません。アルバイトの学部生やテクニシャンが通常担当します。ラボの掃除、ゴミの廃棄なども大学が雇う専門スタッフが定期的に行います。大学院生以上は本当に研究だけしていればよいわけです。学生でも給与をもらえることもあり、こちらでは研究=仕事という意識が非常に強いようです。恵まれた環境と言えますが、楽しいから研究するという日本での研究姿勢も、私は忘れないようにしたいと思います。

  写真はラボの様子と建物内の共通スペースの様子。椅子の高さからベンチの高さが想像できると思います。ほとんど立って作業できます。共通スペースのみで飲食することが許されています。ラボ内は実験スペースがあるため飲食禁止です。
 

  (コンドン)
2007年9月掲載

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