コーヒーブレイク

「アメリカ東海岸留学日記」 第7回


 

> 2008年 4月 15日   「TAXリターン」

  こんにちはコンドンです。再び春の季節がやって
きました。昨年4月1日付けでポスドクとしてアメリカで勤務し
始めた私ですが、気づけば文字通り、あっという間の一年間で
した。1年目は、ビザや雇用関係の書類の処理から、家を見
つけ、車•家具を買い、新しい友達作りや研究者のネットワーク
を作り直すなど、何かと仕事以外でやらなければならないこと
が多くありました。振り返ってみると、いつも何かでバタバタと
していた記憶があります。今年からはもっと落ち着いて研究に
勤しめるに違いない…と期待しています。

  さて、1年経っても未経験のイベントがいくつかあります。その
一つはtax returnの申告です。これは日本でいうところの確定申告のようなもので、申告する事でtax deductible に値する出費(保険や通勤費など)にかかった税金や余分に差し引かれたその他の税金が雇用者の収入に応じて返金されるというシステムです。アメリカの税金は住む州と収入額にもよりますが、だいたい収入の20〜25%くらいだと言われています。多くの人にとっては中々大きな金額となります。何か物を購入するときにtax deductibleかどうか、ということが売り文句の決め手となるほどで、こちらではtax returnはお金を取り戻すための大きなイベントといえるでしょう。

 申告は、毎年1月−12月、1年間の収入に対して申告します。大学側から1月末に1年間の収入のまとめが送られてきます。私の場合は4月からの勤務だったので、今回は9ヶ月分の収入に対する申告になりました。アメリカでは、州税(state tax)と国税(federal tax)の二つがあり、毎月別々に給料から差し引かれています。そのため、tax returnの申告も州と国それぞれに対して申告しなければなりません。4月の閉め切り日(今年は4月15日)までにそれぞれのTaxオフィスまで別々に申告書を送ることになります。期限内に申告しなかった場合や、書類に不備があると、罰金を課される事になります。そのため、締め切り日が近づくとtax returnの話題はそこここで持ち上がり、郵便局では書類の郵送のため長蛇の列ができます。書類の不備に対して政府がお金を課すところはさすが、合理性の国アメリカという感じです。
 

  しかし、このような罰金制度があっても、多くの人がぎりぎりまで書類を用意しないようです。というのも、日本のように1枚書類を書けば良い訳ではないからです。申請の仕方によって使う書類一式が異なり、それによって返ってくるお金の金額も異なるため、多くの人はちょっとでも返金額を増やすために真剣に取り組みます。そしてもちろん、それを代行するビジネスも成り立つわけで、個人向けの税理士業を営む会社も多くみられます。お金を返してもらうのに、お金を払うというのは変な感じがしますが、やはりプロの手を借りた方がより確実に、効率良く返金されるということなのでしょう。

   私の場合はJ1ビザステータスのため最初の2年間はtax 
  treaty (日米租税条約)の適用を受け、federal tax、私の州では
  state taxも、全額免除になります。しかし、免除であっても申告
  はしなければなりません。返金が大きな目的ではないので、
  自分で記入することも考えました。しかし、友人が過去に自分で
  申請して不備があり、$200の罰金をとられたということもあり、
  結局、外国人のtax return申告に詳しいtax advisorを雇うことに
  なりました。この場合は、大学からもらった収入を示す書類とパ
  スポートを持っていくだけで、あとは必要書類をadvisorが全て
  揃えてくれます。面接にかかった時間はわずか20分ほどで、最終的な書類が揃うのに1週間ほどかかりました。サービス内容にも、オンライン、電話相談、面接、と色々な種類があり、後者に行くほど相談料金が高くなります。私の場合は初めてということで、一番高い面接のコースを選んだため、総額$150ほどかかりました。決して安くはありませんし、もちろん同じ外国人ポスドクでも自分で申請する人は多くみられます。しかし大幅に時間と精神的負担が減ったという意味では価値ある出費と言えるでしょう。
 

  今年1年間はJ1ビザステータス2年目ということで、まだ非課税ですが、3年目からは課税となるため、年々収入が上がるにも関わらず、手取り金額は少なくなる事が予測されます。私もtax deductibleな投資や買い物に勤しむことになるのかもしれません。このように、税金申告にも、こちらでは投資の要素を含んだ仕組みが入っているといえます。アメリカではさらに、国民保険や年金制度がありません。そのため、各自で老後のために不動産や金融商品への投資および貯蓄をするのが一般的です。このような国の制度から、アメリカの人々は比較的、自己責任で投資計画を練る生活に慣れていると言えるでしょう。

 日本では税制も変わってきているとはいえ、まだまだ政府のサービス(アメリカ人はこれを「管理」とも呼ぶ)を多大に受けていると言えると思います。自立していない日本人、というようなフレーズを聞く事もありますが、反対に、それだけ日本政府が信頼にたる政府であるということかもしれません。日本では、無料のtax advisorが政府自身であるとも言える訳で、雑務は政府に任せて、自分は仕事に専念する、というのは、ある意味最もシンプルで、理想的な関係だと思います。

 税申告に限らず、日本のサービスは細かいところまで、非常に行き届いていたと今になって感じます。私を含めて、このようなサービスに甘やかされている日本人が海外に行くと、つくづくと日本は良い国だったなぁ、と思わざるを得ません。それが、最終的に日本に帰国する人の数が、他国に比べると多くなる理由の一つかもしれません。一年経って感じるアメリカと日本の特徴を一言で言うと、自由と自己責任の国アメリカ、安定と信頼の国日本、という感じでしょうか。もちろん、どちらも一長一短ではないかと思います。

(写真は、最近参加した小さな学会の会場付近のビーチやカフェの様子。こちらではリゾートで小さな学会を行うことも多く、発表の合間にビーチでゆっくりすることもできる。)
 

(コンドン)
2008年5月掲載

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