実施例

KOD -Plus- 実施例6 Colony direct-PCRによる黄色ブドウ球菌の遺伝子プロフィール解析

【データご提供】
国立感染症研究所生物活性物質部, 日本微生物クリニック株式会社 技術部 土崎 尚史 様
国立感染症研究所生物活性物質部 堀田 国元 様

【はじめに】
PCRの鋳型としてインタクトの菌体をコロニーから反応液へ直接添加し、そのままPCRを行うColony direct-PCR法(以下CD-PCR法)は、E.coliなどのグラム陰性菌において一般的に用いられていますが、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌では再現性の良い結果が得られず、これまで不向きとされてきました。
筆者らは、多数の臨床分離MRSA菌株の抗生物質耐性遺伝子解析を迅速に行なうためには、CD-PCR法の適用が不可欠と考え、再現性の良い条件の確立にチャレンジしました。その結果、反応液に添加する菌体量を極力抑えること、すなわち、目に見えない量の菌体を滅菌爪楊枝で添加することが、MRSAをはじめとするグラム陽性菌において再現性の良いCD-PCRのためのキーポイントであることを見出しました1)
ここでは、それを基に確立したMultiplex CD-PCR法によるMRSA薬剤耐性遺伝子の同時検出例を紹介します。

【方 法】
5種の薬剤耐性遺伝子を標的とし、各標的遺伝子のプライマーをPCR増幅産物のサイズが互いに100〜150bp程度の差になるよう設計しました(Fig.1参照)。反応液の基本組成は、DNAポリメラーゼとしてKOD-Plus-を使用し、反応液量を20μlとした以外はキットのプロトコルに準じました(Table 1)。
寒天培地で培養した被験菌コロニーに、滅菌爪楊枝の先端を軽く触れることによって目に見えない量の菌体を付着させ、それを反応液に接触させ、攪拌したりせずにすぐに引き抜き、以下の条件でPCR反応を行ないました。

Table 1 反応液組成                          

  成 分 終濃度   サイクル
   PCRバッファ(KOD -Plus-用)       1×     95℃, 3 min.    
   dNTPs  各 0.2mM      ↓    
      MgSO4      1mM     95℃, 30 sec. 30~35
cycles
   aac(6')/aph(2'') プライマー  各 0.5μM     50℃, 30 sec.
   aad(9) プライマー  各 0.4μM     68℃, 1 min.   
   mecA プライマー  各 0.2μM     ↓    
   aph(3')-III プライマー  各 0.2μM     68℃, 3 min.    
   aad(4',4'') プライマー  各 0.2μM        
   KOD -Plus- DNA ポリメラーゼ       0.4U        


【結果および考察】
臨床分離MRSA菌株のうち、抽出したDNAを鋳型にしたPCRで標的遺伝子プロフィールの異なることが明らかになっている5株を使用して行なったCD- PCRの結果をFig.1に示しました。図から明らかなように、各菌株において各々の遺伝子プロフィールを完全に反映する標的遺伝子の明瞭な増幅が認められました。

次に、CD-PCRに影響するコロニーの要因について種々検討しました。その結果、培養に使用した培地の種類による影響は認められず、また、培養後に冷蔵庫で長期保存していたコロニーを用いても問題ありませんでした。唯一影響が認められたのは、添加菌体量でした。すなわち、Fig.2のように、反応液の入ったチューブを12本並べ、最初のチューブはE.coliの場合と同様に爪楊枝先端に付着した目に見える量の菌体を反応液ですすぎ落とし(レーン1)、その後、その爪楊枝の先端を残りのチューブに連続して一瞬だけ接触させました(レーン2〜12)。

その結果、レーン1ではPCR増幅の阻害が認められたことから、MRSAではE.coliにおいて適当とされている菌量を添加してはCD-PCRがうまくいかないことが分かります。レーン2以下では全てのレーンで増幅が認められ、極微量の菌体が添加されたときに安定したPCR増幅が得られることがわかります。その後の検討で、反応液20μl当り102〜104cfuの細胞を添加したときに良好なCD-PCR増幅が見られるということがわかりました。

アガロースゲルで検出可能なDNAの最低量を10ngと仮定して、その量に30サイクルのPCRで到達するために必要な鋳型DNA量を逆算すると、鋳型として数百fgのDNAが必要で、そのためには102cfu の細胞数で十分であることが計算されます。これに基づいて、我々はMRSAでCD-PCRを成功させるには、できる限り少ない菌量を添加することがキーポイントであるという考えに至りました。

さらに、このことを踏まえると、性能の良いDNA polymeraseを用いる事も重要と考えてKOD-plus-を採用しました。その結果、MRSAにおける再現性の良いCD-PCR条件を確立することができました。なお、Taq DNA polymeraseやその他の古典的なDNA polymeraseを用いたときには、再現性の良い結果は得られませんでした。

以上のように、黄色ブドウ球菌において再現性良くCD-PCRを行なうためには、反応液への菌体添加量を極力抑えることと、KOD-plus-のような高性能のDNA polymeraseを使用することがキーポイントです。

参考文献
1) 土崎尚史, 石川淳, 堀田国元, Jpn. J. Antibiot ,53, 422-429(2000)


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